Annie Laurie 中編

神谷先輩曰く、俺は不幸なのだそうだ。

シアワセというものの定義が俺と先輩の間で大きく異なっているのは俺と先輩が出会って間もなく気づいたことだったのだけど。俺の考えている神谷先輩はそういった自分の考えをあまり口にしない人であったから彼にそう言われたとき俺は多少驚いた。

実際俺は不幸なのだろうか。
確かに実の母親は死んでいて、今の家の中で肩身の狭い思いなぞしていないといえばそれは嘘になる。頭もさほど良くないし、特技もない。姉のように要領よく物事をこなすことすらもできないから俺は両親を苛立たせてしまう。しばしば暴力を振るわれることもないわけではないがしかしそれもすべて根本的には俺の至らなさに起因するわけだから彼らには何の罪もない。俺は家族が嫌いではないし彼らも俺を愛していないわけではない。じゃあ俺はどうして、どうして不幸なのだろう。

どうして俺が不幸なのかわからない。俺は言う。
俺の隣に座り、俺の左手に右手を重ね、少しだけ甘えるように肩へもたれかかって、先輩は俺の問いかけに答えてくれる。

「だって、俺の知っている梨本君はいつだって悲しそうだから」

「……そんなことないですよ」

悲しそう、とはどういうことだろうか。俺はそんなにわかりやすく何か悲しみを表に出した記憶も、いつもそんなことをした覚えもなかったし、ついでにいうと神谷先輩のことを俺は少なからず好いているので、悲しそうなんてそんなことはないと思うのだが。

でも先輩は緩く首を横に振る。
そんなことあるんだよ。と言う。

「俺は梨本君が好きだから、梨本君には幸せになってほしいなって思う。…うーん…なんか、違うなぁ。……そう、梨本君と俺と、二人でいて二人とも一緒に幸せでいられたらって、そう思ってる。梨本君のおかげで俺はこうして幸せだから、梨本君を幸せにしてあげたいんだ。」

そう言った彼はふと俺の顔をじっと見て、頬にそっと口づけをしてきた。

「この前はそれができなかったからね。」


ああ、先輩はどうしてそんなことを言ったのだろうか。この前とは果たしていつのことであろうか。
その話をしたその時は只々先輩に口づけをされたということだけが頭の中でぐるぐるしていたのだが、先輩のことを突き放した今になってそんな些細なことを思い出した。





Back


[TOP]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -