ぼくのちいさないもうと 前編

 僕には二人の妹がいる。

 僕の双子の妹が「さな」それとは別にもう一人、僕の5歳下の妹が「なお」
 二人とも僕の大切な家族だ。

 あの事故がおきたのは僕が8歳の時だった。
 その日、僕たち家族――つまり僕と両親と二人の妹――は遊園地に来ていた。
 僕とさなはその時8歳で背の高さもたかが知れていて、なおに至っては3歳の、まだよちよち歩きの赤ん坊から抜け出したかどうかって頃だったから、当然刺激的な、いわゆる、ジェットコースターみたいな乗り物とはまったくもって縁がなくって、三人ともお子様用の遊具に両親と一緒に乗ってきゃっきゃとはしゃいでいたように思う。

 僕は二人の妹のどちらも変わりなく同じくらいとっても好きだったと断言できるのだけど、そうとは言っても、僕とさなは家族を愛するのとはまた別に、互いをかけがえのない存在として扱っていた。僕もさなもそうだった。これは僕の想像や推論ではけしてない(だってぼくはさなから直接その話を聞いたのだから。)
 だから僕たちは一人でどこかに出かけたことなんてまずなくて家の外に出るときには必ずと言っていいくらいいつも固くお互いの手を握っていた。

 だからと言って僕たち二人がもう一人の小さな妹のことをないがしろにしていたかというとそんなことはまったくもってなくて、僕たちは二人とも、自らが互いに与えるのと同じくらい――むしろそれ以上の愛をもってして、彼女のことをかわいがっていた。 僕もさなも、なおのことが大好きだ。僕たちをみる湿っぽく輝く大きな瞳も屈託のない笑顔も、頬にできるちいさなえくぼも日に透けてきらきらする細い髪の毛も何もかもが僕たち二人にどこかしら似ていて(まぁ、それは僕たちになおが似ているのではなく僕ら三人の子供たちがみな同じように両親に似ているということなのだけど)それがなおと僕たちは紛うことなき家族であって同じ血が流れているのを示しているようだから僕もさなもその小さな妹を見るとなんだかいつもうれしくなってしまう。
 似ているとかそういうのを抜きにして考えても、なおの仕草や表情はいつだって明るい、だから彼女といるのは本当に楽しいし、僕たちは彼女を守ってあげたいと考えてしまう。
 そう、彼女が泣いてしまうようなことがあれば僕たち二人はどんな手段をもってしてもその元凶をつぶさなくてはいけなかったのだ。いつかその元凶は僕たち家族の全員を不幸にするのだから。

 しかし、僕はあの日過ちを犯してしまった。

 妹は階段を転がり落ちて頭を打って、そして何もかもを忘れてしまった。
 僕はその時妹の手をしっかと握りしめ一緒に階段を上っていたのだけど、足を踏み外してバランスを崩した妹の手を、離して、しまった。
 まず悲鳴が聞こえ、そうして次に金属の階段に重たく固いものがぶつかる鈍い音が何回か次第に遠のきつつ聞こえた。僕は彼女の名前を呼ぶことも叫ぶこともしないでぼんやり階段の途中に突っ立っていた。僕が立っているのよりもっとずっと下のほうに、小さな人影が見えた。大人の人がたくさん、その影のほうへ駆け寄っていく。僕はようやく我に返り階段を駆け下りる。あの人影は、僕の妹じゃないか!!

 妹の小さな頭には恐ろしいくらい赤く、粘度のある液体がべったりと付いていた。膨らんだスカートから覗く小さな足はなんだか変に曲がっていた。結わえた髪はほつれて、今日彼女がつけていたはずの、僕がプレゼントしたリボンがどこかに消えてしまっていた。その変わり果てた姿を僕は一瞬だけ見た。(一瞬なのはすぐに大人が僕の目をふさいで彼女の姿を隠してしまったからだ。)
 でも、ほんの一瞬だけど、一瞬は彼女の姿を僕の目に焼き付けるには十分すぎるほど長い時間だった。僕は考える。(ああなんてことをしてしまったんだろう!僕は自分の妹を殺してしまった!!)







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