「ねぇ、煽梨ちゃん。」

傘をもった蒼海羽君がてこてこと私の後ろをついてくる。
まだ雨はやまない。

 「今日の晩ご飯なぁに?」
 「今日はね、オムライスだよ。」

十三回目の記念日。
だから今日はオムライスの日。

 「ホント?」
 
嬉しいのだろうか。満面の笑みを浮かべる彼。
でも蒼海羽君ってオムライスそんなに好きだったっけ……?

 「あ、煽梨ちゃん。卵。卵買おう。」
 「え?あ、あぁ、うん。そうだね。」

そう言って前を向くと雨が降りしきる道の真ん中でぽつんとたっている女の子が見えた。
小さな、たぶん一年生か二年生の子だろう。頭につけたリボンも、長い髪もぐしょ濡れにして、ただぽつんと、傘も差さずに、一人で。

 「あの子……?」

何を考えているのかわかんない、空っぽな顔でじっと空を見ている。
もしかしてお化けか何かの類いだろうか。
 
 「蒼海羽君、あのさ。」

あの子。見える?

 「あの子……?あのお化けみたいな子?」

やっぱり蒼海羽君にも見えていた。よかった。
私にしか見えないお化けなんてそんなの怖すぎるよ。

 「僕にも見えてるけど。何で?あの子普通の子じゃん。気にする必要ないよ。」
 「そう、かな」

傘も持ってないなんてかわいそうじゃない?
そう思うのは私だけだろうか。
少なくとも蒼海羽君はそんなことちっとも考えないんだろうけど、さ。

 「まぁ、いいや。行こう。」
 
気にしちゃいけない。気にしなくてもいいの。
もし、彼女が私と会うべき人間なら、きっと、また出会うはずなのだから。

ちら、と彼女が私を見た気がした。


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