何が十三回目なのかというと、
簡潔に言おう。留年した回数だ。

普通そんなに留年していたらどう考えても婆になってしまうのだが、
不思議なことに、この地下学園都市ではいくら留年しても身体的成長をしないのだ。
成長するのは中身だけ、
見た目は永遠に子供のまま。

だから若さを捨てて”ニンゲン”になるか。普通をあきらめ若さを保つか、というのは近年の私にとって、かなりのウェイトを占める悩みだ。
蒼海羽君は「僕はどんな煽梨ちゃんも大好きだよ」なんていうんだろうけど。そういう問題じゃないと思う。

ぽつり

雨の音。

作り物の空しかないのに、雨だけは一丁前に降るんだから。
あっという間にでこぼこのアスファルトが黒く染まっていく。
ぼつぼつぼつぼつと大きな雨粒が、地面と私を一緒くたに叩きつけてきた。

寒い。傘、忘れちゃったや。

途方に暮れて道の真ん中に突っ立ている私。
このあたりは軒もないから雨宿りできない。どうしよう。どうやって帰ろう。あ、卵買わなきゃ。

 「煽梨ちゃん!!」

誰かに後ろからぎゅむっと抱きつかれた。
少年そのままの声、薬局と同じ薬の匂いが細い腕と一緒に私の体を包み込んでくる。冷たい。

 「蒼海羽君。」

私は、愛おしそうに私の背中に頭をなすりつけて「くへへ」と笑う彼を呼ぶ。
病院も薬局もお薬も大嫌いだけど、蒼海羽君の匂いはなんだか落ち着く。
小さな傘が、私と雨の間に割り込んできて。
まるで世界からここだけ切り取ったみたいな気分だ。
切り取られた小さな世界に、私と蒼海羽君の、二人きり。

 「なぁに?煽梨ちゃん。」
 「蒼海羽君、どうしてこんなとこにいるの?ここ、中央区だよ?」

私たちの居住区は南区の端のほう。今いるここは中央区の北の方。
いつもはお家から一歩も出てこない彼がこんなに遠いところまで一人で来るなんて。

 「お迎えに来たのー。」

傘が傾いて雨粒がこぼれた。

 「煽梨ちゃん傘持ってなかったでしょ?だから。」

黒い傘。
降ってくる雨をはじいて。
私たちを切り取る。黒い傘。

 「ありがと。」

言った私に笑いかける彼は。

 「………うん!」

ずっと昔から変わらないんだ。




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