プロローグ
ひとつ検査を終える。ひとつ手続きを行う。
ひとつ、地上から遠ざかる。
何個目かの検査と手続きを終え、私は階段を下る。
怖いかい?隣にいた兄が問いかける。
彼はまっすぐ前をみて、私に一瞥もくれない。
でも、冷えて震える手をしっかりと握って、一緒に階段を下ってくれる。
私は、そんな、兄の他人行儀な優しさが大好きだ。
壁にはめ込まれたカラフルなLEDがチラチラと点滅する。
今は地下何階なのだろう。
それも今となってはどうでも良い。どんな奈落にだって、底はあるのだから。
そう、兄が言っていた。
……兄が。
……………兄?……あ、……誰が、
誰がそんなことを言ったのかしら。
私に兄なんていたのかしら。
壁にはめ込まれたカラフルなLEDがチラチラと点滅する。
ほら、明るくなってきた。もうすぐ町に着く。隣にいた男がそう言う。
手のひらのぬくもりは、消え失せていた。
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