一匹狼と猛禽
※5巻あたり

雪の中に篭もって待った末、ウサギ一匹をしとめた。脇腹深くにナイフが刺さり、雪原に転がる食料。そこそこ脂肪を溜め込んでいるようで丸々している。その食料の耳を掴んで肩にかけたときだった。

「これはトルフィン、ちょうどいいところに」

運ぶの手伝ってくれませんか。ここまで大物が穫れるとは思ってなくて難儀してたんです。そう矢継ぎ早に言うのは、アシェラッドの後ろをついて回る兵団唯一の女、アリアドネだった。しとめた鹿を指さしている。雪の上を引きずってきた跡がずっと続いている。立派な角を持った雄鹿だった。

「この大雪のあとだし期待してなかったんですが、運が良かったです。あ、トルフィンはウサギ獲れたんですね」

「そうか。てめえの獲ったもんだ、てめえで持って帰れ」

「そうしたいのは山々なんですがね、重たくて」

「食えるところがたくさんてことだな、良かったじゃねえか」

「良かったんですが、重たくて」

「そりゃ大変だな」

「手伝ってもらえませんか」

「…………………」

「無視ですか、ひどい」

そういいつつも雄鹿を引っ張って数歩遅れつつも俺の歩みにあわせてついてくる。重いと言った割には元気だし、余裕じゃねえか。

「それ、どうするんです」

「食うに決まってるだろ」

「どこか火を借りる伝があるかと聞いたつもりです」

「うるせえな」

「一緒に借りませんか、手間が省けるし」

「うるせえな」

「ただでとは言いません。腿でもどこでも好きなところを分けましょう」

「要らねえ」

「それだけで足りるんですか?」

「だからうるせえって言ってんだろうがよ」

キイキイと喧しいぞお前。そう突き放しても親鳥の後を必死について回る雛の如く、頑なに離れようとしなかった。





「アリアドネ、デカい鹿が獲れたじゃねえか」

「ビョルン、捌いたらあとでお持ちしますね。アシェラッドにも伝えておいて下さい」

「それにしてもトルフィンはウサギだけか、しっかりしろよ」

「うっるせえな!」


20150411
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