血の滾り
※戦闘狂夢主

戦いであちらこちらに傷を負って、血を失って体力も底を尽きて疲れに疲れながら殱滅した敵本拠地を後にした。手に持つのすら億劫で愛槍を引き摺りながらどうにか歩けば、血に濡れた槍の矛先がコンクリートの上をガリガリと耳障りな音を立てて付いてくる。バイクに乗ったはいいけどわたしは河上にしがみついているのがやっとで、目を閉じ思考を停止させてひたすら体力回復を図っていた。

エンジンの振動と耳元で唸る風音と、河上以外の感覚が何もない。傷が疼く。体の節々が軋んでいる。下腹部が、熱い。熱を持ちつつある体の中心に意識が向けば向くほどに本能が鎌首をもたげる。

河上の体の厚みとか匂いとか体温とかその他諸々が、自分が欲しているものとピタリと一致してしまった。アジトに戻った頃には我慢のしどころをとっくに超えていて盛りのついた猫よろしく、手当てもそぞろなまま河上に縋っていた。

「泣いても止めはしないぞ」

どうやら盛っていたのは向こうも同じだったようで、跳ね除けられることもなくあっさり腕の中に掻き抱かれてそのままシーツの海に二人して沈んだ。



訳も分からないほどに無我夢中になった。性的な興奮ではなく獣じみた荒々しい昂りだった。

「―う、あっ」

小夜は、皮膚にできた傷を包帯の上から押さえつけられる痛みを快感だと錯誤するほどに興奮しているようだ。中途半端に脱げた服が腕や足に引っかかって邪魔くさい。が、それを払う時間すら惜しい。汗と血の匂いが立ち上る中でただひたすらに互いが互いを貪った。我慢ができずに強請ってきたのは小夜だったが、それに易々と応じてしまう己もまた自制が効かない。

「早く」

「急かすな」

「…っう、」

「はあ…」

碌に解しもしないで繋がってしまったが、満ち満ちと窮屈なのに誂えたかのようにピタリと収まり自然と発せられる声で互いに具合が良いことがわかる。引き、穿つ。生々しい水音が大きくなる。

「あ、そこ」

薄い腹の中の熱のある辺りをついと撫でながら好きだと言う。視線を遣れば、深く浅く出入りするさまが見て取れる。好きだというところを不意に押し上げれば小夜は蕩け掠れた声を上げた。切なげにこちらを見遣って足を絡ませて腰をくねらせる。

「あっ、ん…」

鼻から抜ける甘い声を頼りに中を擦り探る。柔い肉の中がきゅうと締め上げるところを、緩急を交ぜ穿つとあっさり小夜は達した。咥え込む肉唇が震えるのを構わず続ければ、棒が肉の襞を擦り上げる度にぬるぬると滑りが良くなっていく。隙間なく接合しているそこから卑猥な音が響く。先に音をあげたのは小夜だった。

「かわ、河上、だめ…苦しい」

自ら背中に腕を回して密着しているのに苦しいという。足を絡ませて腰をくねらせているのに。うっすらと目が潤んで吐く息は荒い。

「誘ったのはそちらであろう」

でも性急すぎると弱音を吐く。泣いても止めぬと言った手前止めはしないし歯止めもきかなかった。細い肩が、薄い腰回りが、艶かしく動く。仰け反り現れた喉仏のなだらかな窪みですらこちらを煽る情景になる。

「ひ、っ」

最奥を執拗に穿つと上半身を仰け反らせて、足は相変わらず腰に絡まりついている。繋がった部分はひくついて柔らかく熱く、肉襞が締まって搾り取らんとうごめく。時折激しく痙攣して小夜の四肢が硬直する。

達している、と判ってはいたが体が止まらない。構わず穿つと悲鳴を上げて腰が逃げた。ゴチ、と鈍い音とともに小夜の頭と壁が当たった。やれ、仕方ない。体勢を直す間すら惜しい。壁とぶつからないように手のひらで頭を覆った。覆い被さり逃げ場を失った小夜の体の中心をより深く打ち付けて泥濘みに沈んでゆく。

「赦せよ、抑えがきかぬ」

感覚を共有しているのかと錯覚するほどに体の反応が手に取るようにわかった。擦り上げる箇所によって小夜がどのような反応を示すのか、どこが良いのか、どこが好ましいのか。ぐずぐすに解れた肉の襞を思うままに突き上げた。



河上がお腹の奥にまで入り込んできた。内臓が押し上げられる感じがする。大きいのがグイグイと。力強く押されてるけど痛みは全くなくてただただ気持ちが良くて、お腹がきゅうと身悶えているみたいだ。下から忙しなく波が来る度に体に痺れが走る。堪らなくて河上に足を絡ませて、動きに合わせて腰を振る。ああ、もっと奥まで入ってきた。お腹がまたきゅうと切なくなって、また腰を振れば奥まで入ってくる。視界が少し弾けた。

「ま、まって、待って」

心地良すぎて体が震えてきた。足先が痺れている。体の奥が拓かれてもっとたくさん河上を迎えようと、心に反して体は素直に喜んでいる。それを見て河上はくつりと笑った。

「いちいち堪えのない」

体温が高い。暑い。ひと回りは大きい体躯を前に、怒張しているそれをもっと奥まで受け入れたいと繋がっている部分が期待をする。でも心が追いつかない。

「奥はダメ、待って」

抱きしめられて穿たれていてるから、顔が近い。普段はサングラスをかけてあまり窺い知れない瞳が、わたしを捉えている。表情を崩すことの少ない河上の顔が、まるで飢えた獣のような色を瞳の中に湛えていた。視線がかち合うのと深い部分を力のままに小突かれるのは同時で、視界がクラクラした。

「待たぬよ」

もっと足を開いて受け入れるしかない。そんな目をしてそんなこと言われてしまったら。構わず穿つぞと、耳元で断言されたら、もうなす術がない。ぶちゅり、とはしたない音がずっと聞こえてくる。待ってと言ったのに、わたしは河上に合わせて腰をくねらせもっと深いところを穿ってと強請っている。肉欲が理性を凌駕している。道理なんてちっぽけなものを置き去りにして、恥ずかしい音を立てて交わっている。ああ、体が、お腹が熱い。

「あ、あ…っ」

涙が溢れて目尻を伝っていく。打ち込まれは抜け出ていく熱い楔を享受する体は、なにもかも抑えが効かない。腰は貪るように動いて、喉からあられもない嬌声が溢れる。河上がわたしの耳元で何か言ったけど、だめだ、頭に入って来ない。

体の感覚と河上の体温だけがはっきりしてる。河上のものが、熱い。大きな熱が穿たれてわたしはまた声を上げて泣いて腰を揺らす。体の中で何かが溢れる。お腹が、河上と繋がってる部分がどうしようもなく切なく疼いている。河上の背中に腕を回して切なさに身を委ねると、彼もややあってから体を震わせた。そしてわたしにつられるように動きを止めた。



一頻りまぐわったあとに触れる肌は熱く汗ばんでいる。腰回りがひどく気怠く、ぐずぐずに解れた泥濘みにしばらくの間浸かっていたい心地だ。

「頭は痛くないか」

「ん?平気」

しこたま打ち付けた頭を気遣うと、当の本人はぶつけたことすら忘れているような態度だった。

「頭より痛いところがあるんだけど…」

新たに出来た傷の手当てが甘かったかと憂慮した途端、情事の後とは思えない俊敏さで身を翻した小夜が腹の上に跨っていた。こちらを組み敷いてご満悦の様子だ。なるほど。痛むより疼く、が正解だろう。いまだに繋がったままで中に収まっているだろう下腹部を掌で摩りながら小夜は淫蕩な笑みを浮かべた。

「足りないからもう一度」

返事もろくに聞かず避妊具を外し萎んでいるそれを口に含んで弄ぶ。舌の先端辺りに鎮座する銀色の球体が時折、際どいところを掠めていき否が応でも勃ち上がる。しつこく舌先のピアスが触れて腰が浮き上がりそうになるのを堪えるのを見て小夜は満悦の表情を見せる。

「わたしが足りないだけだから、河上は寝てていいよ」

情緒など気にせず一人で済ます気でいる小夜は避妊具をすっかり被せてしまった。反り返るものに手を添えてぬちぬちと先端と入口を擦り合わせて一人遊びを始める。気侭に弄くるのは構わないが鋭敏になっている部分をやたらとねちこくされると保つものも保たない。

「小夜、お主一人だけと思わないことだ」

「え」

身動き取れぬよう深く足を開かせて強引に突き上げれば掠れた悲鳴のあと、腕の中で小夜が戦慄いてパタパタと飛沫がシーツに散った。

「か、河上ぃ…っ」

腰を抜かしてしなだれ掛かかり、予期しなかった衝撃に息が詰まり体を震わせている。小夜の声から怯えの色が窺えたがそれを無視して動き出した。煽ったそちらが悪い。


20200419
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