アブノーマルなプレイの話
※ちょっとアブノーマルプレイ

「悠。ものは試しだ、付き合え」

「断る」

「怪我したくなかったら動くなよ」

「だから断るって言ってるだろうが」

お前の耳は飾りか、という言葉は耳に入っていたかどうかも危うい。こんなことしようと思い立つこいつも大概阿呆みたいだけど、なんだかんだ付き合ってしまう私も相当な阿呆だと思う。



必死に顔を隠す様子を見ていると、原から聞いた話はあながち間違いではなかったらしい。指先がぬかるんだ肉に埋もれているが、その肉が忙しなく蠕動している。

「い、や」

ベッドに身を沈めてか細い声でこの行為自体を否定する悠は、顔だけじゃなくて首元まで仄かに赤く染まっている。興奮していないはずがねえ。耳にタコが出来るほどに聞きなれた常套句ではあるが、こう言える。「体は素直だな」と。

「嫌なら最初から抵抗すりゃ良かっただろうが」

「うるさい…」

アンタが無理矢理するからでしょうが。悠は握り込んだ拳に一層力を込めた。抵抗する気力も体力も殺がれて、雌猫の声を上げないようにひたすらに堪えている。

「怪我したくなかったら、って 脅したアンタが悪い」

何だそれ。抵抗出来うる術を持っているにも関わらずそれを行使しなかった。お前自身が選択したからこその結果だろう。とんだ責任転嫁だ。

「う、動かすなっ ぁっ」

言われた通りに指を止めてやる。手の隙間から表情が垣間見えた。歯軋りしながら息を整えて、こっちを見上げる。ああ、ひっでえ眉間の皺だな。しつけえようだがそんなに怒るなら始めから本気で抵抗しろ。

「これで満足か」

「いちいち気に障る言い方が得意だね本当… !」

悠が安堵したのもほんの束の間だった。落ち着いたはずの呼吸が切羽詰った。演技がかった肩の戦慄きに、足の跳ね。何を大袈裟な、と思いつつもそもそもこいつは演技なんて気の利いたことをするような奴じゃない。よほど敏感になっているのか、動きを止めたというのに勝手にそこが痙攣し始めたわけだ。

「―っ!」

体の感覚が暴走する。なんてことのない微かな動きでさえ感知してそれを体が善いものとして享受して、熱を上げさせる。

「や、やっ…ひ 、」

悠の反応は、まるで、というより淫乱そのものだった。のろのろと指を第二関節あたりまで引き抜いた時、悠が俺の手首を掴んだ。

「う、動かすなって 言ったじゃん…!」

「動かさねえなら入れておく意味ねえだろ?抜いた方がいいんじゃねえの?また入れるけどな」

「そういうこと言ってるんじゃないって…、あ だから動かすなっての…っ!」

口論の合間にも指を引き抜こうと手を動かすと、それを制するように悠の手に力が篭る。微かに、そこが締まった。

「…どうしてえんだよ」

「…………」

「おい」

「ぬかないで」

口が裂けても言わないだろう言葉に、思考が停止した。悠の口から出たそれを単なる音としてではなく、たがが緩んだ理性で肉欲に従順になったが故に出た声としてではなく、悠本人の意思による言葉だと脳が飲み込むのにえらく時間がかかったようだ。



「騙されたと思ってやってみる価値あるよあれは」

「何の話だ」

「剃毛」

「ぶっ!」

「山崎汚い」

「童貞のザキヤマくんには刺激強かった?」

「どどど童貞ちゃうわ」

「別につるつるなのが好みっていうわけじゃなかったんだけどさ」

「何、お前がつるつるなの?」

「違うー」

「あ、彼女か」

「そうそう彼女ちゃんがつるつるなんだよね。ていうか何で俺が自分の毛剃るの。興奮もしないんだけど」

「騙されたと思ってやってみる価値があるとか言うからてっきり原の実体験なのかと」

「えっ、そういう趣味あったの」

「ねえよ」

「海外じゃそうするのが当たり前らしくてさー、新たなる刺激が欲しくて試してみたわけ」

「で、どうだったんだ」

「そうしたらやばいの。普段なら1回でもういいってなるのにその日に限って『もう1回、もう1回だけ』っておねだりしてくるんだよ?体の切れ目が縁の切れ目っていうけどしばらくは退屈しなくて済みそう」

「金の切れ目じゃねえの?」

「性欲持て余す方が辛いからね」

「まあ、分からないでもない」

「それに性欲が1番強いのって17歳頃みたいだし。まさしく俺らの年齢じゃん」

「下半身の欲求に忠実なわけだ」

「欲求には素直に従うのも大事だと思うんだよね、俺」

「てめえは少し慎みを覚えろ」

「男だらけの空間で慎みもクソもないっしょ。こういう空間でしか下世話な話出来ないんだもん」

風船ガムを膨らませながらへらへらとのたまう原は、グラビア誌を片手にそう言い、更に続けた。

「それに、お互い気持ち良くなれるなら文句はないデショ」

部室の雰囲気が妙なものになったのは、言うまでもない。



「ひ、や  はなみや」

予想以上の反応だ。

「悠」

背中に回った手がシャツを掴んで離さない。悲鳴と嬌声が綯い交ぜになりながらも悪態つくのはいつもの通りなのに、下半身の反応がいつも通りじゃない。

「ひ、あ ああっ」

溢れるそれで滑りは良いし反応も上々、激しく動けば動くほど、背中は反って腰が艶かしく動く。勿論動かそうとしてそうなっているわけじゃない。悠の足が、腰を包み込むように絡み付いてくる。それと同時に首元に埋めていた顔を少し上げて制止を求めてきた。

「ま、待ってもう無理」

「散々イって何言ってんだ」

「いや本当に無理」

「最後まで付き合え」

くぐもった声で「馬鹿馬鹿。私を殺す気か」とひたすら罵倒してくる悠の四肢はそれらしく反応を示している。本当に、体の方は口とは違って正直だ。立て続けにそこが収縮して、その度に甲高く一際艶っぽい声を出す癖して、人を馬鹿呼ばわりすんじゃねえ。

「死んじゃう」

悠の背中に手を回して突き上げると、潰された蛙みたいな不細工な奇声を一瞬漏らして涙目で睨み上げてきた。まだそれくらいの元気が残っているなら、これを続けるのも無理じゃない死ぬこともねえよ。

「この程度で音を上げるな」

「他人事だと、思って…!」

「そりゃ他人事だな」

とはいえ、化けの皮がまた一枚剥がれたと思えば罵倒されようが構わない。寧ろ瑣末なことだと割り切れる。汗で皮膚に髪がへばりついた額とか、睫毛にくっついて光る涙とか、そんなのに何か特別な感情を抱くなんて、らしくねえ。

「他人事だけど、そうでもねえな」

「…は、意味が分からないんだけど…っ」

「分からなくて良い」

気にする必要もないし、する気もなくしてやる。腕の中で短く喘ぐ悠の声に高まりの色が感じられるようになって、益々締りがきつくなる。女の感覚がどうなのかは推測の域を出ない。体の中を引っ掻き回されて何を感じているんだか、何を考えているんだか一見しただけで分かるはずもない。

分かることなんて出来ないから必死に縋ってくる様を見ていると、満更でもない気分になる。やり場のなくなった感覚に悠は最終的に抱きついて、泣きながら達した。



「いつまでヘソ曲げてんだ」

「曲げるわ。曲がらない方が不思議だわ」

「あんだけ盛大に善がってた癖に」

「うるっさいな」

「おいどこ行く気だ」

「風呂。借りる」

「手伝ってやろうか」

「要らない」

「立ち上がれねえのに遠慮すんな」

「本当に要らない、要らないから、触るな…!」

「遠慮すんなって」

「しつこい!!」


改稿:20200506
初出:20130512
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