夢の中で会う話
気がついたら座っていた。

「……?」

ここはどこだ、と周りと見回す。滑り台に砂場、遊具がある公園の中。見覚えのあるような、ないような場所に私はいた。晴れているようで明るいけど、風景がセピア色なのはおかしい。ジャングルジムの青っぽい色が霞んでいる。

目が疲れているのか。瞼を擦ってからまた見てもその色と風景に変わりはない。子供の笑い声に混じってブランコを漕ぐ音が微かに聞こえる。あれを聞くと風雨に晒されて少し錆っぽくなった鎖の匂いを思い出す。

「あ」

ふと、隣に少年が座っていることに気がついた。年齢は、どれくらいだろう。小枝みたいに細い腕。厚みのない体躯。小学生にもなっていないくらいかも知れない。笑い声が大きくなる。遊具の方に目を遣ると、傍らの少年と同じくらいの子供たちが駆け回っていた。

「…君は遊ばないの?」

「うん」

遊具に群がって無邪気に遊ぶ仲間―と思しき子供―とは対照的に、冷めた目でその様子を眺めている。

「知ってる子がいない?」

「ううん」

「ならどうして」

「たのしくないから」

反りが合わなくて浮く子供ってやっぱりどこにでもいるものだ。親戚の子供にも一人遊びしている子がいたっけ。冷たい目線を送り続けていてはいても、はしゃいでいる子供たちをじっと見つめていて。なんだか苦しそうだった。悲しい、寂しい、切ない、その全部が混ざったような、物憂げな目をしていた。そして、服の裾を掴みながら「ひとりのほうが、いい」と、か細く言った。

「1人の時は何してるの」

「ほん、よんでる」

「楽しい?」

「うん」

見ず知らずの子にどうしてこんなことを話しかけているんだろう。まるで旧知の仲、気心の知れた相手と話すみたい。子供たちは相変わらず駆け回って遊んでいた。でもそのうち、一人また一人と公園から去っていく。迎えを待つ子もいる。セピア色の風景もいつの間にか灰色に変わって、薄暗くなってきた。

「1人で来たの?」

「うん」

「お母さんは」

「おしごと」

だから、まっていてもこない。そう言ってまた服の裾をいじる。それなのに、公園の外を見つめている。曲がり角から顔を出すのは自分の親なのではないか。そう期待しているみたいだった。手をひかれて歌を歌いながら家に帰っていく後姿をいくつ見送っただろう。

待てど暮らせど現れる気配なんて微塵もない。伏せられた目には、変わらず影がある。小さくて華奢な指を握り締めて肩を落とす。「来ない」。来ないのか。誰も。迎えには、来てくれないんだな。

「…帰ろうか」

どこに?それ以前に、どうしてこの子に「帰ろうか」なんて聞く必要がある?おかしなことを尋ねてしまった。でも少年は遊具の方をじっと見ていたけど、私の方へ向き直って首を縦に振った。幾ばかりか、嬉しそうな顔をして。

「うん、帰ろう」

そうして彼は、両手をいっぱいに伸ばしてきた。見慣れたその動作を前に、私は反射的に膝を折った。同じように両手を伸ばして腕を背中に回す。柔らかい髪が、頬を撫でた。覚えのある感触だった。



本を読んでいる途中で寝息を立てる。最近そういうことが増えた。ソファに深く腰掛けて背凭れに身を預けている。いつから寝てたんだか。瞼はピクリとも動かない。読み終えた本の続きはどこかと本棚を探し回った。が、隣に座っている悠が持っていたことに気がつく。見つからないわけだ。まだ半分も読み進めていないらしい。毟り取ろうと身を乗り出した

「―!」

本に指が触れるか触れないかの距離まで詰まった時、身動ぎ一つしてしなかった悠が突然体を起こしてきた。背中に回された腕。手が服を握り込んでいく。何と勘違いして抱きついてきたんだ。

「おい。何を寝惚けてやがる」

離せ。起きろ。邪魔だ。頭を軽く叩くと鈍い動きで顔を上げ、酷く不服そうな目つきをしてまたしがみ付いてきた。

「寝惚けてない」


改稿:20200506
初出:20130206
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