造り変えられた感情
そうであることを強要されていた。だから、読まなくても良いその場の空気を読んでしまっていた。行き過ぎた気配りに、空気を読むだけではなく接する人それぞれに対して合わせるようにもなった。
自分自身が、親の都合の良いように作り上げられている事実が拭えなくて吐き気がする。感情を殺して考えてもないことを、相手の顔色に合わせながらペラペラと喋って、笑顔で会話して。それを繰り返しているうちに、周りから根っからの善人だと認識されるようになってしまっていた。
―ふざけやがって―
素でこんな性格をしている人間なんか、世界中探してもいるわけがないと思う。仮にいたとするなら、そいつは余程のお人よしか紛れもない馬鹿か、私みたいに良い子ちゃんを演じている人間に決まっている。隣人を愛せよ、とは言うが生憎そんな思想も篤心も持ち合わせてない。
苦手な奴もいれば吐き気がするほど嫌いな奴も、顔すらも見たくない奴だって溢れ返るほどいる。大した努力もしないで人にばかり頼る奴だって、本当なら顔面をたこ殴りにしたいくらいに憤っている。
宿題見せて、と宣ってふざけるのも大概にしろ。遊び回っていたのだから自業自得だろう。そんなに頻繁にお願いするからには、アンタらも私に何かしてくれるのが筋というものだ。友達の振りをしているだけの奴にホイホイ見せてやるほど優しくはないのだ、私は。
偉そうに教鞭を執る大人たちにも同様に憤りを覚える。上辺だけの知識を植え付ける、教員免許を取っただけの薄っぺらい人間。私より何年か早く生まれただけで「学生らしくあれ、立場を弁えろ」と指導という名目のもと叱責をする。その割には嫌われることを回避しようと特定の生徒に媚びを売り可愛がっている。された方も満更ではない様子であるのが、傍から見ていて寒々しいったらない。
―どいつもこいつも、目障りな奴ばかり―
進級してから同じクラスになった奴が、物凄く気に食わない。成績優秀な優等生、部活でもキャプテンをやっているらしい。とても人当たりの良い雰囲気で話をするのは見たことがあるけれど、奴は絶対に仮面を被っている。
奴は、私と同類だ。私と同じ雰囲気を纏っている。見た瞬間に分かった。アイツとは一切関わりたくない。同類を見ていると、胸糞悪くて気分が悪くなる。ドロドロに濁った感情を仮面の下に隠して何食わぬ顔をして過ごしている。そういう輩は鏡を見ているようで、非常に面白くない。ただただ、不愉快で、仕方ない。
「おはよう掛川さん」
「おはよう、花宮くん」
飽くまで白を切る。お人好しを装って、善人ぶって丁寧なご挨拶。必要最低限の接触で済むように事を荒らげず波を立てず、静かに躱す。そう出来たのは、昨日までだった。
改稿:20200506
初出:20120906