呑まれた可愛い貴方呑まれた可愛い貴方

 
真選組内で催される飲み会というのは非常に慎みがない。年末年始の仕事が忙しい時期に開けなかった忘年会と新年会を兼ねた場を設けることになった。しかも開催が二月って、季節外れでもはや何の会なのかわからなくなってる。

「うえーーい!! 名前!! 飲んでるか!!」

「いえーーい!! 近藤さん!! 飲んでますよ!! うっわ、かなり酔ってるな面倒くさ」

普段は取り締まる側の人間がどんちゃん騒ぎする様子は見てて面白い。仕事中は真面目なのに酒飲むといい意味で豹変したりと思いもしない側面が見えるからだ。だけどそれは序盤だけで、各々が酔い始めると限度を超えてくる。居酒屋だったら出禁食らうレベルの騒々しさだ。早速近藤さんに絡まれてるし。このまま調子乗り続けるみたいなら髭を毟るからな。

煙たい匂いがしてきて振り返ると、土方さんがタバコに火をつけて盛大に煙を吐き出していた。

「ちょっと! 土方さん吸うのやめてください!」

「酒の席が禁煙なんて流行らねえんだよ」

無視を決め込む土方さんは徐に二本目のタバコを取り出した。流行るか流行らないかじゃねえんだよ。

「吸うなって言ってるだろタバコくせえんだよこのクソ副長!! 火ぃ消せや!!」

「うごぉっ!!」

「あっ、やべクリーンヒットしちゃった」

近くにあった灰皿を渾身の力で投げたら見事に顎にめり込んだ。普段の土方さんなら避けられるのに、ちょっと酔ってるのかな。まあ灰皿を当てたことは適当に誤魔化そう。最悪覚えてて処分されても謹慎だから痛くも痒くもない。

「あれ? 伊東先生」

鼻血を出して倒れ込む土方さんの向こうの襖から、伊東先生が部屋を出ていくのが見えた。どうしたんだろ。足元がちょっと覚束ない。しつこくウザ絡みするゴリラに関節技をキメて私も後を追った。廊下の奥、伊東先生がふらりと人気のない給湯室に入っていくのが見えた。そーっと気配を消して給湯室を覗き込む。伊東先生は給湯室の隅にある椅子に座って空中をぼんやり眺めている。ちょっと待って、こんな伊東先生初めて見た。

「伊東先生……?」

「苗字くん、どうしてここに?」

「ちょっと賑やか過ぎたので……。どうされました? 体調が優れませんか?」

「いや、部屋が暑くてね。少し涼みに来たんだよ」

「それならあとで暖房の温度を下げておきます。お水、飲みますか?」

「ああ、もらうよ」

鋭い目つきは鳴りを潜めて声もいくらか柔らかい。血色もよくて耳まで仄かに赤くなっている。うわ、完全に酔ってるよコレ。嗚呼、アルコールよありがとう。アルコール発明した人よありがとう。アルコールは偉大なり。信仰する神はいないけど、神よ感謝します。コップに水を注いで手渡すと、伊東先生は半分くらいまで一気に飲み干した。

「飲みの席は、毎度こんなに大騒ぎになるのかね」

「日頃の仕事で気が抜けないからその反動でしょうね」

「揃いも揃って子供のようにはしゃいで、君も大変だろう」

「朝から晩まで屯所内で仕事してたら慣れましたよ。確かに大変ですけど、酔ってても度が過ぎたらどつけばいいだけですからね。飲むなら呑まれるな、です」

「ふふ、文句を言いつつも、君は楽しんで、いるようだな…………」

「先生?」

静かになった伊東先生を見たら、コップを持ったまま壁に寄りかかってスヤスヤと寝息を立てていた。

「……うそ」

寝落ちした!! あの伊東先生が!? 悲鳴をあげそうになるのを必死で我慢して、伊東先生の寝顔をひっこりこっそりチラ見し続けた。ガン見なんかできなかった。


20230504

「酒に弱かった頃の伊東先生が!見たい!」と夢主が叫んでいた気がしたので書いた。




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