正確無比な理由正確無比な理由

 
ナマエは血生臭え戦場でたまに腰をかがめては立ち上がり、あちらこちらをうろうろと歩き回っている。

「何やってんだ」

「矢を拾ってるんです。私はこれがないと役に立てないので」

地面や死体に刺さってる矢を引っこ抜いて使えるかを確認している。折れているものはポイと放り投げて、目ぼしいものがあればそっちの方に歩いていく。血と肉がこびりついていようが、折れてさえいなければ使える、とナマエはつぶやいた。

「これは?」

「あ、使えます。ありがとうございます」

地面に突っ伏して死んでいる奴の腰から矢を取って渡すと素直に受け取った。

「他の奴に手伝わせるか」

「いいんですよ。私が一番使ってるので」

戦場を離れても、ナマエは弓矢を使ってる時間が長い。起きている時間の間、少しでも暇があれば手にしている。今もそうだ。木によじ登って太い枝に足をかけて逆さにぶら下がって矢を番えている。狙いを定めて手を離すと、数メートル先にいた鹿に刺さった。ナマエを見ていた奴らが驚きの声を上げる。

「お、当たった」

「おもしれえことやってんな」

「はあー……本当あいつの腕はすげえなあ」

「久しぶりだな、鹿肉は」

「普通に撃てばいいのに変な奴」

馬に乗って駆けながら射るのもお手のもの、遠間からの射撃も外れなし、戦場で仲間を助けたりと女だてらに大きな戦果を上げている。本人はあまり興味がないようだが。

木に登ったままもう一度辺りを見回したあと不意にナマエは立ち上がる。構えたかと思ったら、足に弓を引っ掛け狙いを定めて矢を放った。今度は近くにいたウサギが標的だったが、矢の狙いが外れたのとウサギが異変を察知して逃げ出すのが早く逃してしまった。

「うお、なんだありゃ」

その奇妙な撃ち方をするのを見ていたのは俺だけで周りの奴らに「おい今の見たか」と聞いても「なんのことだ」と話が通じなかった。

「おいナマエ、なんだありゃ。足でやったのすげえじゃねえか」

「ああ、見てたんですか。外しちゃいました」

ウサギを仕留め損ねた矢をしまいながら弓の弦を弾いて、何がいけなかったのかを考えている。練習してたんです、とナマエ妙なことを口にした。俺とナマエの周りでは仲間たちが捌いた鹿の肉を焼いている。

「器用な奴だな。ぶら下がったり足で撃ったり。なんでそんなことをする?」

「どんな状態からでも撃てたら面白いかなと」

でも面白いというのは語弊があるかな、とナマエは首を捻る。

「平らな地面の上でしか撃てないなら意味はないと思うんです。木にぶら下がってでも、片方の手が塞がっていても、敵に囲まれても急所を射抜けたならすごいでしょう?」

「すげえが、もうお前は十分すげえだろ」

「私はこの兵団の戦力になりたいんですよ」

何をそんなに大真面目に腕を磨くのかさっぱりわからなかった。ナマエは俺の疑問に気がついたのは話を続ける。

「仮にですけど、どんな窮地に陥っても私の弓矢で乗り切れるかもしれない。仲間を救えるかもしれない。そう考えるとつい」

「なるほどな」

「次は飛んでくる矢を掴めるようにならないと」

「それは無理じゃねえか」

「そうですか? でも空中で掴めるようになればそのまま撃ち返せるから、反撃までタイムラグが少なくていいと思うんです」

「んなこと、考えたこともなかったぜ」

「ビョルンは剣を使うからですよ」

体格差、力の差を埋めるには相手が予想だにしない方法で戦う必要がある、とナマエは言う。既に兵団随一の腕前を持つナマエは寝ても覚めても弓矢のことを考えている。

「窮地に陥ってたとしても、って言ったけどよ」

「はい」

「そういうときは俺がキノコ食えばいいだろが」

「それはそうですけど、食べた後が大変では? 特に周りの人がビョルンを押さえるのに」

「なに?」

「うそですよ。頼りにしてます」



20230504

兵団の日常。こういう軽口を叩いて欲しい。




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