モブDの悲劇
※腹黒彼女
※三年生設定

学内随一の秀才と言われているらしい花宮先輩と掛川先輩。二人の話題を振ってきた友人に「あの二人、生理的に無理」と突っぱねた。そうすると友人は不思議そうに首を傾げてわたしを見る。

「なんで?カッコよくない?」

「はああ?逆になんでカッコいいと思えるの?」

頭はいいし所属してる部活はそれなりに結果を残していて文武両道を体現しているしなんかカリスマっぽいからと友人はじめ周りのみんなは口を揃えて言う。いや、盲目的や過ぎないか。どこがカリスマなのか。友人もクラスメイトも教師陣も学校全体も騙されてると思うよ。

「小学生男子が足が速いからモテるみたいな考え方じゃんそれ。高校生にもなってそれはいただけないわ。もっと人間性に着目しないと」

「じゃあ生理的に無理な理由を述べよ!50文字以内で!」

「なにこれテストの設問?」

二人を見た時の印象を思い出す。人当たりは良さそうなのにどこが不穏な感じがあって、周りとは一線を引いて必要以上に群れることを好まなそうで。二人揃ってそんな雰囲気を醸していた。彼らが話しているところはどことなく棘が合って今すぐ喧嘩を始めやしないかとヒヤヒヤする。

「取ってつけたような関係性がいやに気味悪いし、二人とも何考えてるか分からんしとりあえず近づきたくない」

考えを素直に述べれば、友人は「アンタも人間性に着目しろよ」と煽る。

「あの二人を見かけてキャッキャしていられる連中の心持ちが分からんわ。先生たちも何でよいしょしてんの?影で何言われてるかわかんないしみんな怖くないのかって感じ。謎じゃない?」

わたしは彼らがどう知り合ってどう関係を深めてあのような立ち位置におさまっているのかは知らない。でも確実に言えるのは、あの二人は嘘っぱちから始まった関係だと思う。何が嘘っぱちなのかと問われたら答えられないけど。普通に好きな人同士が付き合うには少しばかり違和感がある気がする。その違和感を前に気持ちが拒絶する。この人たちめちゃくちゃ苦手だわ、と本能でわかる。

「あの二人、外面が異様に良いだけじゃん。成績優秀で素行が良ければ進路でも優遇されるからそれ狙いなんじゃないの?」

「ええ…アンタそんなこと考えてんの?性格悪っ…」

性格が悪そうなのは先輩たちでしょ。なんでわたしが性悪みたいな言われ方をしないといけないのさ。

「まぁ私みたいな一切接点のない下級生がお近づきになることはないだろーけどね!同学年じゃなくて本当によかった!」

踏ん反り返って先輩方を小馬鹿にして笑っていたわたしに罰が下ったのだと、今ではそう思う。



選挙管理委員の仕事は半年に一回だ。候補者多数の中、わたしはジャンケン5連勝で最高に楽な仕事を勝ち取った。来週に行われる生徒会長の投票の前準備で相談したいことがあったから三年生の教室まで足を運んだ。開いたドアから教室を見回すけど、遠間だからイマイチ見えない。覗き込むような不審な動きをしたのが悪かった。

「あなた下級生だよね。どうしたの?」

「すみません、春田先輩っていますか……!?」

声をかけてきた主は掛川先輩だった。振り返って彼女と目があってしまい「ヒィ」と悲鳴とも呻き声とも取れる音が口から漏れる。

「春田くん?部活の集まりでいないけど」

先輩の不在を伝える先輩の声。視線。立ち振る舞い。作り物みたいで血が通ってない。ロボットが意思を持って動いているような気味の悪さがある。

「あわわわわ…、掛川、先輩…」

「春田くんの部活の後輩?」

「い、いえ、違いマス…」

「そうなの」

彼が帰ってきたら伝えておこうか?名前は?と聞かれて会話をしていることに耐えられず「名乗るほどの者ではございません!」と敬礼して猛ダッシュで自分の教室に逃げて帰ってきた。事の顛末を友人に話すと爆笑された。



体育の授業の後だった。体育館から教室に戻る途中にうっかり花宮先輩と鉢合わせしてしまった。いや大丈夫、目は合ってない。素知らぬ顔をして横を通り過ぎようとした時だった。

「あ、君って卓球部の人だよね」

ななななな、何故この男はわたしが卓球部所属だと知っている!?我が卓球部は去年立ち上げたばかりで三年生はいない。同じクラスに部長を担う子がいるのだ。声をかけられたのが数歩あとだったら無視してやろうと思ってたのに、反射的に顔を上げたら花宮先輩はわたしをしっかりと見据えていた。あ、やばいロックオンされた。背中を嫌な汗が伝う。

「卓球部の部長に用があるんだけどなかなか会えなくてさ」

「は、はひ……」

「悪いんだけど言伝をお願いできるかな」

いやいやいや嫌です!無理です!ご自分の足でもっと探してからにしてもらっていいですか!腹の底から叫びたかったがわたしの口からは掠れた蚊の鳴くような声しか出ていなかった。

「も、もちろんです………」

「ありがとう、助かるよ!」

花宮先輩、笑ってはいるけど目が笑ってないんだけど…。震える足でどうにか教室まで辿り着いて部長に泣き付きながら、怯えつつ聞いた言伝を伝えた。友人はその様を見て大爆笑していた。



天敵に遭遇してしまったショックと傷を癒そうと思ったけどわたしの癒しは飼ってる雑種犬のダンだ。早く家に帰りたい。フラフラと覚束ない足取りで図書室に向かう。読み終わった小説と授業の参考になるかと借りた本を返しに来たのだけど、これが仇になった。

「お前、まだこの本に手をつけてなかったのか。こんなの片手間で読めるだろ」

「アンタ基準で考えないでくれる?読めるわけないでしょ。ていうかそれ嫌味?」

「知ってるか?敏感で悪意を持っている奴ほど嫌味に受け取るらしいぜ」

「はあー?わたしが神経質だから嫌味に受け取ってるとでも?今のは100人が聞いたら100人が嫌味って言うわ」

「一言も言ってねえけどな、そんなことは。被害妄想も大概にしろよ悠」

ヒィッ!ドアを開けるなり刺々しさがデフォルトな会話を繰り広げる花宮先輩と掛川先輩がいた。なんで行く先々に現れるんだこの人たち…!

「あ、さっきの…。春田くんには会えた?」

図書室に足を踏み入れたわたしの存在に気がついたのか掛川先輩はよそ行きの柔和な笑顔をこっちに向けた。わ、わたしのことなんか気にしないでくれよぉ…!

「言伝ありがとう。ついさっき部長と会えたよ」

追い討ちをかけるように今度は花宮先輩がわたしに話しかける。つーか部長と会えたんかい!やっぱあの時きっぱり断っておけばよかった!そうすればこんな思いしなくて済んでたのに…!

「さっきの二年生?彼女、部長だったんだ」

「去年創設された卓球部の部長だよ」

「へえ、知らなかった」

うわわわ…なんだその外面の良さ…。アンタたちさっきまで口論寸前の勢いで喧嘩売り合ってたじゃん。なんでこんな目に遭うんだ。泣きたくなってきた。

「厄日だ!!今日は確実に厄日だ!!!」

ギャアアアと悲鳴を上げてもんどり打つわたしを見て花宮先輩と掛川先輩は笑っていた。二人とも目が笑ってない!やだもう怖いよおお!!


霧崎第一高校の日常4
(モブDの悲劇)

20200703


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