モブCの証言
※腹黒彼女

一個上の学年に、花宮真先輩と掛川悠先輩がいる。僕は二人と直前関わりがあるわけではない。ただ、彼が少し有名ということだ。いや、有名というか、目立つというか、存在感があるというか、人混みの中でふと目が止まる。そんな存在。

花宮先輩は頭脳明晰で校内模試では主席の成績をおさめる。更にはバスケ部主将。出所は定かではないけれど、IQは200近いという噂もながれるほどで凡人の僕には到底想像もできない思考の持ち主なんだろう。

掛川先輩も花宮先輩同様に成績は学年上位を維持し、その見た目や雰囲気からは想像もしない空手部所属であり、本人は認めていないようだが型・組手ともにエースだそうだ。二人とも文武両道を体現している。絵に描いたような人が実在するんだなあと僕は素直に驚く。

「この間、花宮がさ」

通りすがりに聞こえた上級生の会話の一端。雰囲気からして推測すると「やっぱりアイツはすげえわ」というところに帰結する気がする。

「さっき掛川先輩が図書室にいた。やばい。かっこいい」

クラスの女子の会話。根拠はないけど、女子からかっこいいと言われる掛川先輩は相当かっこいいんだろう。僕もそう思う。

「花宮と掛川ですかねえ」

先生たちの会話でもたまに二人の名前が挙がるのを耳にする。前後の会話は全く聞こえていないので話題が何かは判断できないけど、あの二人が話題なら良い方の話題に決まっている。二人とも自己主張が強いわけでもないようにも見えるし、でも何事もそつなくこなしている。そうに違いない。

校内で、それぞれを見かけると「あ、先輩だ」と意味もなく認識する。二人が共だって歩いていたら、余計に認識せざるを得ない。なんとお揃いなんだろう、と。文武両道、第三者からの評価も高い、高い理想を掲げ日々を謳歌している人たち。僕にはそう見える。

「ああいう人たちって運命的な出会いを果たして、なるべくしてああなってるんだろうね」

並んで歩く先輩二人を目で追って、ぼそりと呟いたら「何言ってんのお前」と友人に心底不思議そうな顔をされた。



朝から人身事故に巻き込まれてしまった。鮨詰めの車両の中、同じ制服を着ている人がちらほらいて安心する。一限の授業は運がいいことに自習に充てられていたから遅刻しても痛くも痒くもない。不幸中の幸いだ。

「近いな」

「我慢しろ」

聴き慣れた声、ではない。声が大きいわけでもない。それでも僕の耳にするりと滑り込んできた会話の声の主は花宮先輩と掛川先輩だった。僕の斜め後方、マイペースそうなサラリーマンの陰から二人の姿が垣間見えた。向こうに僕の存在が認識されていないことをいいことに二人を盗み見る。

「人の額に本を乗せて読むのやめてくれる」

「お前も人の胸倉に本の背中を押し付けんじゃねえ」

向き合うように立っている先輩たちの距離は異様に近い。掛川先輩は花宮先輩の胸に、花宮先輩は掛川先輩の頭に本を乗せてそれぞれ読み進めているのである。本の虫もいいところだ。こんな混雑した電車の中で本を読むなんて。

文句を言いつつもそれを許容している姿はなんとも、こう、全てを受容して信頼しきっている関係のようで、つまり夫婦のようで、僕は胸が異様にときめいてしまった。なんだろう、上手く言い表すことができない。僕はとてつもなくプライベートな場面を見てしまった。会話を聞いてしまった。思っていたより先輩たちは結構年相応な面を持っていた。かなりキュンとした。


霧崎第一高校の日常3
(モブCの証言)

20170208


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