モブAの報告
※腹黒彼女
※モブは男が良いと助言してくれた澪那さん、ありがとう!


俺の成績はクラスの中では下から数えた方が早い。その冴えない俺の隣の席に座るのは、毎度毎度試験で一位取るのが当たり前、IQが160以上あるとかないとか、噂が流れてる男、花宮。バスケ部の監督とキャプテンを兼任してて、それでいて模試一位。どういう頭してんだよ。秀才かよ。あながちIQ160以上っていうのは嘘ではないのかも知れない。出来る奴は頭の出来からして違うんだなーと嫉妬すら覚える。

で、その秀才には彼女がいる。名前は掛川悠。こっちも模試とかテストの結果で上位十位には食い込む成績の良い優等生。更には部活でも活躍してて文武両道。非の打ち所がない。類は友を呼ぶ。出来る奴のところには出来る奴が集まるもんだ。俺とは住んでる世界が違う。そして、この二人が席替えで前後の席になった。そんな漫画みたいなことあるんだなーと他人事だった。別に二人と仲が良い訳でもないからな。

「これを解くには、さっきの公式を当て嵌める」

数学は得意な方じゃない。それなのに今、取り組んでる範囲が更に苦手な部分でいまいち理解出来ない。そうなると受けるのが億劫になって。でもサボる訳にはいかなくて毎時間大人しく席に座っている。暇潰しにクラスの中に何か面白いことに興じている(勿論教諭に見つからないように)奴は居ないものかと、ふと隣を見た。

「…っ!?」

思わず二度見した。花宮が、前の席に座ってる掛川の髪の毛を、指で弄っている。お、お前ら授業中に何いちゃついてんだよ。驚きのあまり、持っていたペンを落としそうになって、我に返る。い、いや落ち着け俺。これはいちゃついてる訳じゃない。花宮が、一方的にちょっかいを出しているだけだ。それにしても、授業中になんて大胆なことを。

掛川がそれを止めさせようと、花宮の机の縁に肘鉄を一発。ガツン、と鈍い音が響いて数人の生徒がそっちの方を見たけど、当の本人たちは至って無表情でいる。肘鉄の一撃で手を離した花宮はシャーペンを持ってノートに文字を書き殴る。しばらくの間そうしていたけど板書し終わったのか、また掛川の髪の毛を弄り出した。おい、さっき止めろって態度で示されただろ。

「邪魔」

「授業に集中しやがれ」

「アンタが言うな」

掠れるほどの小さな声で言葉を交わすのを、俺はしっかり聞いた。言っても駄目なら実力行使。そう言わんばかりに、掛川は花宮の手を払い除ける。でも今度は大人しく引き下がらず、再び髪の毛に手を伸ばした。ぺちんと手を叩かれても尚、手を休めない花宮に対して掛川は「勝手にしてれば」と冷たく言い放って前を向いて教諭の説明に耳を傾ける。

花宮は、相変わらず髪の毛を弄っている。指に巻きつけたり毛先だけで三つ編みしようとしたり。そんな光景を眺めていると、教諭がテキストの問題を解くようにと指示を出してきた。それと同時に凝視してくる俺に気がついた花宮は、眉間に深い皺を作ってこっちを睨んできた。

「なに見てんだてめえ」

花宮の威嚇するような声色に掛川もこっちを一瞬見遣ったけど、すぐに問題を解き始める。なんだか自分自身の存在が居た堪れなくなった俺は、すんません、と情けない声で謝って視線から逃れるようにして黒板に向き直った。問題は、ちんぷんかんぷんで全く解けなかった。


霧崎第一高校の日常
(モブAの報告)


20121209


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