惚気にしか見えないんだよね
※腹黒彼女

「よう空手部部長。ちょっといいか」

「断る」

部活終わりに名前に声をかけたら、ひどく不機嫌そうに眉間に皺を寄せて素気無く断った。部活の体育館使用で相談しようとしたが取りつく島もない。

「おい」

「断るっつってんでしょ。アンタの耳は飾りか」

「お前こそ耳詰まってんじゃねえの」

「はあ、いちいち腹が立つ言い方しかできない人間っているもんね」

「それ自分のことじゃねえか」

「…で、何の用?」

断ると言ったり用を聞いたりと忙しい女だな。掌返しもいいところだ。まあ口論で負けるのが目に見えて仕方なく聞いているだけだろうが。大人しく最初から生糸けばよかったんだよ、馬鹿が。

「来週末の午前、体育館使うだろ」

「そうだけど」

「練習試合で使うんだよ」

「譲れと?」

「譲れよ」

「…じゃあ再来週。貸しは返してもらうからね」

「大仰だな」

名前はよほど機嫌が悪かったのか一方的に話を打ち切った。言葉も行動も容赦がない。雰囲気も含めて全てに刺がある。俺に向けられる感情に刺がないことなどなかったが、普通に会話くらいは出来ていた。牙を剥かれるのには慣れているし構わないが思い当たる節がなかった。女ってのは面倒だ。

「花宮さぁ、よく笑うよね」

「…は?」

原は藪から棒に声をかけてきた。意味がわからん。

「俺がいつ笑った」

「んや、今じゃなくてさっき」

「…?」

「あれえ。マジで?」

「訳わかんねえこと抜かしてんなよ。明日フットワーク倍にするぞ」

「それは嫌だ」

「つうか笑うくらいするだろ。なんだと思ってる」

「冷血漢」

「フットワーク二倍な」

「ごめんて」

流石に言葉が過ぎたと反省したらしい原は素直に謝った。フットワークを二倍にされて謝るならハナから変な言いがかりをするんじゃねえよ。

「あのさあ」

「なんだよまだ何かあんのか」

「無自覚だろうから言うけどさ、苗字ちゃんと話してるときの花宮ってすげえ楽しそうだよね」

「…はあ?」

「それ苗字ちゃんに言ったらめちゃくちゃガン付けられちゃってさー。超怖かった。人殺してきた目だねあれは」

「あー、機嫌悪かったのお前のせいかよ。楽しそうってなんだよコラ」

「だって楽しそうにしか見えないんだもん」

楽しさなんざない。罵詈雑言を投げつけ合う仲にそんなものありはしない。売り言葉に買い言葉。喧嘩は日常茶飯事。笑うなんて以ての外だろ。

「苗字ちゃんに対する花宮の感情表現って好きな子にちょっかい出す男子って感じだよね。最終的に泣かしちゃってめっちゃ毛嫌いされるやつ。素直じゃないの」

「好きじゃねえけど?」

「嫌がる言い方して向こうが怒るの見て楽しんでるでしょ。違う?」

「はっ。お前に関係あるか?」

「関係ないけど見てて面白いよね。末長くお幸せに」

「願い下げだ」

図星を突かれて言葉に詰まった。どうにか憎まれ口を叩いて凌いだつもりだったが明言しなかった時点で名前の反応を楽しんでると言ってるようなもんだった。

20201004
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