万斉に言いつけが守れたとちょっと甘やかされる
※戦闘狂夢主

左腕に巻かれたギプスが忌々しい。

「全治三ヶ月。よかったでござるな」

「何が!?どこが!?」

河上は大事になっているわたしの腕を見て安心したでござる、と続けた。戦さ場で身の丈2メートル半を超えるような大男に対峙したのが事の発端だ。戦闘続きで頭に血が上っていた癖に、血を流してまともに判断できない状態で、少しばかり体格差がありすぎたというのに、その大男に突っ込んで無謀にも首を獲ろうとした。

結局、その大男は河上が一瞬で片付けてくれた。もう少し遅かったら多分わたしの腕は大男に握りつぶされて粉砕骨折していたかもしれない。

「二度と使いものにならなかった可能性を考えると全治三ヶ月は安いでござろう?」

「再起不能よりは…マシ…だけど…」

「ま、大人しくしておくのが一番の薬であろう、お主にとっては」

「大人しく…え?三ヶ月もこのまま?」

「早く治したいならそうでござるよ」

薬じゃなくて拷問では。そう文句を言うと河上はわたしに選択肢を提示した。

「一刻も早く治すのと、本能の赴くまま腕を使って治療を長引かせるのと、どちらが望みでござるか」

「う、早く治したい…」

「女に二言は?」

「なし…」

言われるがまま従わざるを得ない。だって惚れた弱みと助けられた借りがあるから。痛みもあって戦闘には参加できず、高杉の隣で事の成り行きを眺めたり鬼兵隊の個々の戦いを見ているのが常になりつつあった。初めのうちは自分の参加しない戦闘を外から観察するのはそれはそれで面白かったけど、それも一カ月が限度だった。

「キレそう。槍振り回りたい。殺したい」

「だめっすよ、名前。まだ治ってないじゃないすか」

「さすがにタバコだけじゃしのげない。もう限界」

「全く物騒ですねえ。暴れるのはやめてくださいよニコチンゴリラ女」

木島の至極真っ当な忠告に乗っかるように武市が小言を言い放った。この挑発には乗っておかねば後々小馬鹿にされ続ける未来しか浮かばない。ここで制裁を加えずいつ加えるのか。

「ぶっ殺す!武市てめえはいまここで五百の肉片になるまで刻んで殺す!」

「ああー!だめっすだめっす名前!落ち着くっすー!」

「離せ木島!!やり返さないと女が廃る!!実戦経験なしなら片手で殺せる!!止めるな!!」

「言ったそばから大暴れとは、はしたない。さっさと檻に入れてください」

「武市先輩も煽るな!押さえつけるの一苦労なんすよ!?」

「武市死ねぇえ!!」

暴れるわたしにしがみついて離れない木島は必死だけど、女のする制止なんてたかが知れてる。右手に持った槍が空を裂く。吸わせる血が武市くそ野郎のもので心苦しいが背に腹はかえられない。鬼兵隊は策略家を失うことになるけどこれもまた致し方あるまい。槍を構えた。

「名前」

かしましい声の合間を縫って、耳にするりと流れ込んで来た音に体が硬直する。自分の名前を呼ばれれていると理解すると同時に苛立っていた気持ちがあっと言う間に消えた。振り返ると、声の主が立っていた。

「…河上」

「名前、女に二言は…なんと言ったか」

「…ないです…」

弱みと借りがあることを思い出し、構えた槍を床に落とした。凶暴に暴れ回るわたしを押さえ込もうと懸命に抱きついていた木島は、変わり様に若干引きつつも感嘆の声を漏らした。

「す、すげえ…万斉先輩の一声で大人しくなったっす…」

その日以降、わたしはしおらしく過ごすようになる。高杉の三味線の音を肴に槍の手入れをしたり、木島に銃の扱いを教わったり、腹いせに武市を蹴飛ばしたりするうちに時間は過ぎていった。

「うわ、腕が細くなってる…」

ようやくギプスが取れて左腕を自由に動かせるようになって解放された気分になった。…いや実際に解放されたんだけど。久々の戦闘で思う存分に槍を奮い死体が無数に転がる中心で腹の底から声の限り叫んだ。

「生きてる実感がする!!」

そんなわたしを見て、まだ息をしている侍にトドメを刺しながら河上は言う。

「戦いに没頭するのもいいが、それ相応に自制も覚えねば」

「う…うん…」

ソウデスネ。治療に専念しないといけないこの三ヶ月色々迷惑かけたもんね。そんな事実がある手前、どこか含みのある言い方をされては返事も棒読みになってしまう。

「しかし名前は治るまで戦わずに過ごした」

いい子でござるな。通りすがりざまに頭を撫でられてわたしは悲鳴を上げた。そんなご褒美ある!?

20200809
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