美しい惨事
※Fate/Zero
※綺礼妹
※ネタバレ有り


「あらあら、案外あっさりしたもので…」

「一悶着ぐらいあるかと期待していたが…ふん、興醒めだな」

ただの肉の塊に成り果てた遠坂時臣を見た名前は少々残念そうに呟く。鮮やか且つ静かな刺突を綺礼の背後から見守っていた彼女の傍らにギルガメッシュが実体化しながら吐き捨てた。カーペットに染みて広がっていく血の色を見ながら名前は溜息を吐く。―呆然とした顔を残したまま果てて逝くなど、なんと後味の悪い最期なのか。せめて苦悶の表情を浮かべるなり怨嗟の声をあげるなりしてくれても良いものを。

遠坂時臣がいう「優雅たれ」とは名前にとって真逆のものであった。血の泡を吐き無念さを残しながら潰えることこそが美しさである。故に、最期にこの男があっさりと死んでいったことが酷く不満だった。余裕のある表情を歪め罵詈雑言でも叫ぼうものならそれこそ美しい―殺し甲斐のある―というのに。それを見せてくれたのなら、さすれば耳にタコが出来るほど聞いた「優雅たれ」に少しは理解を示すことが出来たかも知れないというのに。

「何やら不満げだな、名前よ」

「不満ですとも。この男は抵抗の色すら見せずに死んだのですよ?ただ呆けたままに、なんの感慨残さずに。あの遠坂がこんなにもあっさりと…期待外れも良いところです…。王様、これを不満と言わずに何と言うのです?」

「おいおい綺礼、お前の妹も真に面白い奴だな」

兄妹揃って我を飽きさせぬな、と英雄王は艶やかに微笑む。その様子を見ながら綺礼は時臣の亡骸を横に失笑する。

「お前たちは似ているな」

「そうかしら」

「快楽に身を委ねている点が特にな。さぞ愉快なことだろう」

「羨むのであれば、お前もそう生きれば良い。前にも言ったであろう?人の業こそが最高の娯楽であるとな」

この方と私が似ている?と名前はきょとんとしているが、綺礼からすれば昔から見慣れた妹のその黒い瞳が狂おしいほどに滾っているのが見て取れた。凶暴性を垣間見せる英雄王の赤い双眸と妹の、その二人の瞳は色形こそ違えど内に備えるものは同じ。ただ愉悦を求め、それを隠すこともなく表している。

「晴れて、お兄様は王様のマスターになったのですね」

光を宿した令呪を見遣った名前は慈しむようにギルガメッシュと綺礼を見つめる。目もあやに燦然と輝く英雄王ギルガメッシュと、求道者としても代行者としても尊敬して止まない名前の誇りである兄の綺礼。

この二人が正規に契約を成し、聖杯戦争に参戦することに込み上げてくるものがある。嗚呼なんと美しいのかしら、と名前は一人ごちる。どのような嗜虐を尽くした場面を目にすることが出来るのか、興奮に体の中心が熱くなるのを感じた。

「そう急くな。直にお前の求めるものが目に余るほどまみえるだろうて。ただし何の供物もなしに通覧しようなどとは思っておるまいな?名前」

「勿論です、王様」

魔力でもなんでも差し出しましょう、と躊躇わずに返事をした名前にギルガメッシュは淫奔な眼差しを向けた。

「名前、しばし戦場を引っ掻き回して貰う役を担って貰いたい」

「はいお兄様、何なりと」

血の色がそこに映えるのであれば何処へでも、と二の句に継ぐ名前の心は躍っていた。最強のサーヴァントと最愛の兄に仕えこれから目にするであろう惨憺たる美景を思い浮かべる。嗚呼、なんと美しい。


過去夢(2012頃)
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