目に見え、肌に感じるものこそ
※龍之介の幼馴染でプラトニックな恋人
※若干グロ・非人道的表現あり


それとの出会いは記憶も曖昧な頃だった。蟻を踏み潰した、鬱陶しい蝿を叩き潰した、威嚇してくる蟷螂を車輪で轢いた、煌びやかな皮膚をもつ蜥蜴を溺れさせた。気がつけばそれは日常の一部となり生活そのものになっていった。可憐な歌声を披露する小鳥の喉を引き裂いた、無邪気に懐いてくる子猫を吊るした、見ず知らずの子供の腹を掻っ捌いてやった。

目には見えない境界線を跨いだそれらはぴくりとも身じろぎもしなくなる。その境界線とはどの辺りなのだろう。名前の手によって大小ありとあらゆる生命が絶たれて来たが、彼女はそれに何の負い目も責任も感じることはない。彼女が持ち合わせているのは“これは屠殺である”という認識だけだ。名前が屠る理由はただ一つ、興味からだった。

境界線を跨ぎ、生命が物に成り代わる瞬間。それを見定めようという意欲のみが彼女を突き動かす。終わりよければ全て良し、というのが彼女の考えであった。自分のような人間はせめて良い死に方―といってもこれはまだ模索している段階である―をせねばなるまいという観念のもと命を摘んでは捨て摘んでは捨てを繰り返してきた。

その行為を打ち明けた親友がいたのだが、酷く拒絶された上に外道呼ばわりされあまりにも悲しくなり殺してしまった。が、幼馴染の龍之介だけは名前の行動を、思考を理解してくれた。理解を示してくれる相方を得て名前の非行は過激さを増していく。そして隣には必ず、龍之介がいた。

「最近スナッフフィルム見ててもなんも感じないや」

「あー、俺も」

「やっぱ駄目だよね、生で見て直に感じないとね」

「そうそう、ザクッとするかグチャッとするかって選べるしね」

パソコンで再生しているのは最新のスナッフフィルムであるのだが、興奮も期待もない。ただ人が肉になるまでの過程を見ているだけである。陳腐すぎて名前と龍之介は二人揃ってつまらない、と画面に背を向けた。

「そういやこの間、渋谷でとっ捕まえたカップルの最期ったら残念すぎてもう…凹んだわ」

「えっ何々?名前ってばいつの間に二人も殺ったのさ」

「んー?聞きたい?」

「そりゃ勿論」

童話でも聞かされるのを待ち侘びているかのように純粋な笑みをなげかけてくる龍之介。しかしその笑みに反して名前は申し訳なさそうに言う。

「本当に残念だったんだよ?ガッカリすると思うんだけど」

「愚痴みたいなものでしょ?言ってすっきりしちゃえば?」

うん、龍之介がそれで良いなら、と名前は数日前のことを思い返す。明らかにイッチャってる風の男女を引っ掛けてラブホテルに連れ込み、“見てる方が興奮する”などと適当に言ってどう殺すかの算段を考えている名前を横目にカップルはまぐわいだした。ふと突き入れている棒を切り取ってみたらどうだろう、と思いついたままカバンから鋏を取り出しそのままちょきんと切ってしまった。

男の絶叫にぽかんとする女を突き飛ばして、枕で顔を押さえ込む。男の絶叫があまりにも耳障りで煩かったからだ。その様子をベッドの下から呆然と見上げる女は股の間に入ったままの棒の名残を見てようやく事態を理解した。その間に出血で男はぽっくり逝ってしまった。死ぬ瞬間が見れなかった。あちゃあ、ぽかしたな、と零す名前は女でどうにかもっと長く遊ぼうと考えた。肉を蹴飛ばして血塗れのベッドに女を縛り付けて、大人の玩具を汚らしい秘部に突っ込んでやった。すると女は恐怖からなのか悦楽からなのか、どちらとも分別がつかないような声を上げたのでこれはまた面白いと思ってちょっとずつ腹を裂いていった。すると女はきいきい金切り声をあげて喚きちらした。その声がさっきの男の声とよく似ていて不愉快で堪らなかった。

うるせえなあと脇腹にぶすりとナイフを突き立てながら玩具の動きを一層激しくさせてみた。どこまで喘いでいられるのかなというちょっとした好奇心で本来の目的を忘れてしまったのがいけなかった。何回もナイフと玩具を出し入れしていくうちに、じゅぽじゅぽと厭らしい音も嬌声とも悲鳴ともつかぬ声はいつの間にやら消え失せて女は尽きていた。あ、また境界線を見ていなかった、とこれだけの労力を割いて得るものなしか、と酷く落胆したのだった。

「という訳です」

「うーん、ちょっと熱中しちゃった感じ?」

「うん…反省してるけど、悲鳴が耳障りでつい手加減忘れちゃってさあ。渋谷なんかで調達するからかな?」

「いやあ、たまたま相手が悪かったんだよ。名前、次は上手く殺れるさ」

「うん、冷静に、龍之介みたいに言うなら“COOL”にやってみるよ」

背後のスピーカーから「ぐちゅう」と肉の潰れる音がしたが、名前も龍之介も意に介さなかった。


これも恐らく2011年
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