Am12:48
※幼馴染で器械体操部ヒロイン
平均台は得意な部類だ。幅10センチ、高さ120センチ、全長500センチ。この限られた面積の上で跳躍・回転・舞踊的な演舞をする。部内でも苦手な人が多いとされるこの競技が一番得意なのは自分の中でも少し誇りだった。
高校の名前に因んだ通り名のようなものまで他校からつけられて、これもまた少し誇りだった。我ながらなかなか安定してるなと得意になって側転をする。いつもなら足先がしっかりと平均台の上に着地するのに、右足が空を切った。
「あっ」
バランスを崩して、私はそのまま落ちた。
*
「何してんだ、名前」
体育館外のベンチの上で氷嚢を手に伸びている名前はダルそうに俺とクロを見上げてくる。
「ああ、鉄朗に研磨」
「こんなところで昼寝とはいい身分だな」
「昼寝じゃない。しでかした」
「何を?」
「平均台から落ちた」
「で、ここで寝転がってんのか」
「久しく落ちてなくて着地の拍子に素っ転んだとは口が裂けても言えない」
「言ってるじゃねえか」
器具に額をぶつけてしまって頭が揺れて気持ち悪いから休憩してるらしい。バレーボールを手にクロが、小さなこぶが出来てる名前の額を眺める。突こうと手を伸ばすけど名前の張り手を食らった。
「午後練、隣は男バレか。煩く…じゃないや賑やかになるなあ」
「煩くて悪かったな」
ボールを打ちつける音に、氷嚢をずらして名前はクロの様子を窺う。床と壁に一回ずつ、バウンドして戻ってくる。壁打ちは不調を訴えている人の真横ですることじゃないよ、クロ。
「煩いって言った当てつけか。賑やかって言い直したじゃん」
「煩いって今はっきり言ったぞ」
「だから言い直した」
「さっきの話してんじゃねえ、今の話だよ」
「顔合わせればそればっかだね二人とも…」
話をしながら壁打ちしてたら、ボールが変な方向にバウンドしてから壁にぶつかってそのまま名前の腹の上に落下した。ほら言わんこっちゃない(言ってないけど)。
「んぐ!」
「あ、悪ぃ」
「狙ってやったなら許さない」
「おいボール返せ」
「嫌」
「てめえ」
「仲いいなあ、相変わらず」
春一番の温かい風が、吹いた。
20130310