会いたい
※社会人夢主
※微エロ?


伏し目がちの名前さんは、所在なさげに俺の腕に手を添えているだけだった。恥ずかしいようで、黒髪の隙間からちょこんと見える耳が真っ赤になっている。抱き締めていただけなのに、そんなウブな反応するの?今時の高校生ですら、そんな反応する子は―少なくとも俺の周りには―いないのに。

「名前さん」

好きだった。ずっと前から。思いを伝えれば彼女は困ったように眉間に皺を寄せて、でも嬉しそうに口元を綻ばせて俺の名前を呼ぶ。

「徹くん、私も、好きよ」

服の下にあった肢体は想像以上に華奢で、ふわふわと柔らかくずっと触っていたかった。白地に小さな花柄が可愛らしい下着の中に二つの丘が収まってる。体温を、名前さんの匂いを、マシュマロみたい柔らかい体を、直に感じて抑えが利かない。もともと抑えるつもりなんて毛頭なかったけど、考えるよりも先に体が動いてしまう。

「…あ、ん」

名前さん、名前さん名前さん。綺麗に手入れされてベビーピンクのマニュキュアが塗られている爪が、手の甲にちょっとだけ食い込む。前髪を払って目がかち合うと、名前さんは恥ずかしいから見ちゃいや、だめ、と顔を逸らす。だめと言われると益々見たくなるんだよね。

「だめ、だめだってば徹くん」

頑なにこっちを見ない名前さんの頬に、耳に、首筋にキスをすると「ひゃあ」と体を震わせてる。それが羞恥を煽るらしい。されるがまま、開いている腿を閉じようとして俺の体をただ挟み込むだけになってる。なんだか「もっと」っておねだりされてるみたいになってるけど、必死にもがいてそれに全く気がつかない名前さん。無自覚でそういうことするのってズルイなあ。

「ひゃ、ん」

彼女が可愛らしい声で啼いた刹那、周りの風景がぐにゃんと、曲がった。その瞬間、名前さんは俺の腕の中から擦り抜けて行ってあっという間に温もりは消えてしまった。

「名前さん?」

ちょっと待って、何処行くの?手を伸ばしたら、見えない何かにぶつかってそれ以上彼女に近づけなくなってしまった。待って、ともう一回叫ぼうとした時、けたたましいブザー音に遮られて何も聞こえなくなってしまった。はっきり視認していた名前さんの姿が、霞んで見えなくなっていって、そして消えた。

「名前さん」

けたたましいブザー音の正体は目覚まし時計の音だった。さっきの行為が夢だったんだと、目が覚めたことでようやく気がついた。俺に向けられた、彼女の微笑みも温かいぬかるみも夢と一緒に消えてしまったわけだ。

「あー…」

彼女の代わりに枕をぎゅっと抱き寄せて、むず痒い焦燥感を紛らわす。さっきの行為が夢でなかったらどんなに幸せだったか。


20130609
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