手玉に取ったり取られたり
*風間の幼馴染夢主


春先の陽気な日差しと気温を感じながら、信号が青に変わるのをぼんやりと待つ。浮足立つこの季節はあまり好きじゃない。進級して環境が大きく変わって、掴みどころのないあの雰囲気がいつまで経っても苦手だった。引っ込み思案且つ人見知りな性格が少しはましになった。なったものの、やはり人付き合いは得意な方ではない。

その癖、どういう訳か人当たりは悪くないようでやたらと人と関わることが多い。更に、どうも苦手な人ほど寄せ付けてしまうらしく、会話するのは心底億劫だ。その反動か休日は人と会いたくない。数メートル先、同じ学科に所属する女子一行が見えた。苦手な人たちの塊だ。彼女たちをしっかり見据えた後、コンクリートで舗装された足元に目を落とす。

(ゆっくり歩こう、追いつかないように)

だからこうして周りに気が付かない振りをしてやり過ごす。手持無沙汰でついつい、ボリュームを上げる。少し音漏れしてるだろうな。イヤホンをして周囲には一切目もくれず、なるべく人を寄せ付けないようにして「名前さん、何聴いてんの?」

「!」

突然声をかけられて息を飲む。イヤホンが外れた、と思った次の瞬間のことだった。心の準備が整う前に接触されると、大袈裟な話ではあるけど心臓が飛び出そうになる。思わず振り返ったその先、私の真後ろに立っていた青年は見上げるほどに背が高い。

「た、太刀川くん?」

「どうも」

曖昧な挨拶、どこか掴みどころのなく余裕のある笑み、揺るがない自信が垣間見える瞳。それから逃げるように目を逸らす。ああ、やだな。せっかくやり過ごそうとしてたのに。

「へー、名前さんこういうの聴くんだ」

いつの間にか、イヤホンの片方は太刀川くんの耳に収まっていた。勝手に外しておいて勝手につけるなんてどこまでも自由過ぎる。一言、断りを入れたらどうなんだろう。

「や、やだ返して」

「えー。ちょっとくらい良いじゃん」

「あんまり良くない」

渋る彼の耳からぶら下がるコードを引っ張る。すぽん、と抜けて私の手元に戻ってきたイヤホンを上着のポケットに押し込む。その様子を見て「あれ、怒った?」とのたまう。別に怒ってるわけじゃない。それ以降一言も言葉を発しなかった私の隣で太刀川くんはさっきまで私が聴いていた曲のワンフレーズを鼻歌で歌っている。

「それじゃあ名前さん。講義、また一緒になったら宜しく」

お先に、と青へと変わった信号を見て横断歩道を颯爽と行く太刀川くんの後ろ姿を注視する。この季節同様に彼も、心底苦手だ。


20140505
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -