不可侵領域
「紳一と?いやいや、ただの腐れ縁でここまで来ちゃっただけだよ」
紙パックに入ったジュールをストローで飲みながら、幼稚園から高校まで一緒って有り得ないでしょ?と笑う名前さん。ケタケタと笑う声が頭の中で反響した。
「僕はてっきり付き合ってるもんだと思ってました」
「よく言われる。ただの幼馴染なのに言われるこっちとしては変な感じだよ」
「牧さんを下の名前で呼び捨てする人はそうそういないでしょうからね」
「んー…そうなの?」
「大体みんな苗字で呼んでるので」
「悪い待たせたな」
「おかえりー。なんで体育館の鍵返すのにこんな時間かかるの?」
あの牧さんに対してあの軽口。校内においてもあんな口きけるのは、絶対名前さん以外には存在しない。
「待ち疲れたから何か奢って」
「腹が減ったなら自分で買え」
「けちー!」
牧さんの背中をぼすんぼすんと容赦なく叩く名前さん。いい加減それがしつこくなってきたのか、名前さんの頭を押さえつけて動きを遮る牧さん。
「神さん、俺入り込む余地がない気がしてきました」
「可能性はあるんじゃないかな、信長」
「そりゃ、あるなら嬉しいですけど」
そうは言われたものの、数歩先を歩く牧さんと名前さんは、やっぱり傍から見れば恋仲にしか見えなかったし、到底越えられそうにもない分厚い壁があるようだった。
期間限定サイトで書いたやつをこっちに持ってきました。
20140720