能天気と仏頂面
※CLAYMOREのイレーネ
「テレサ討伐?」
組織のナンバー16のナマエが話しているのはナンバー2であるイレーネだ。覚醒者が居る山に向かいながらの道中のことだ。久方ぶりに任務で一緒になったかと思えば、顔を合わせて早々に物騒な話題。静かな森の中、獣道を行く。
「あの微笑のテレサが一体何したの?」
「人を殺した。盗賊一味を皆殺しだ」
えぇー、とナマエは驚きの声を上げる。木に止まっていた鳥が声に驚いて数羽、飛び立った。イレーネは瞠目しているナマエを置いて黙々と先に進む。テレサは人を殺しただけでなく組織からの離叛も犯したのだとイレーネは感情の籠らない声で言った。
「だからナンバー2からナンバー5までが招集されるのね。この仕事が終わったらすぐに向かうんでしょう?大変だね」
「そういう事だ。分かっているならさっさと歩け」
イレーネに追いつこうと駆け足で地面を蹴る。
「4人が束になればさすがのナンバー1も太刀打ちできないでしょ」
「……」
黙るイレーネを盗み見したナマエはあまりこの件には突っ込まない方が賢明かなと判断した。悪い意味ではなくテレサと確執があったイレーネだ。何か思うところがあるはずだ。
「まぁ私には関係無い話よね」
「精々、覚醒者に殺されない様にするんだなナンバー16」
「あはは。酷いなぁ、容赦ないね!」
私がトロいからってそりゃ無いっしょ!とナマエは笑い飛ばす。イレーネは横目でナマエを見た。イレーネとナマエとは同期で多くの仲間が命を落とす中、傍らに立ちともに戦って来た。気がつけば自分の回りに居るのが当たり前のようになっていた。思い返せば長い付き合いになる。
「お前は昔から変わらないな」
「そう?どこら辺が?」
組織に入って顔見知りになって、印を受けて妖魔を倒すようになっても。イレーネは口にせず心の中で独白する。
「その底抜けに能天気な性格、と言っておこうか」
「さっきのより酷いなあ!」
別に能天気って性格を自覚してない訳じゃないけど!と喚く。他の仲間達とは雰囲気が違う。ナマエはらしくない雰囲気を持っているとイレーネは感じていた。
「その楽観的というか、物を適当に見る性格どうにかならんのか」
「適当って…何か今日はやけに突っかかってくるねぇ…」
腕を組んで、悩む仕種をしながらイレーネの隣を歩く。そういう仕種がらしくない、と感じていたのだろう。ナマエのその生き生きとした挙動を見て、イレーネは少し眉を顰める。
「まるで普通の人間のような動きをするな」
「私たちだって元は人間だよ、普通のね」
明るい表情とは打って変わって儚げな、憂いを帯びた面持ちをイレーネに向けたナマエはまるで別人のようだった。
「元は普通の人間だよ、イレーネ。私も貴方も」
「……ナマエ」
これがコイツの本音か?とイレーネは面食らった。自分の知っているナマエは、能天気で底抜けに明るくて所々適当でこんな思い詰めたような表情を見えたりしない。
「こんな環境にいるんだもん。楽しい事考えてないと、気が滅入っちゃうよ」
ナマエは颯爽と前を歩く。イレーネは何か楽しい事とか有る?とナマエは振り向きながら言った。
「…そうだな」
仏頂面のイレーネが少し笑みを浮かべて言った。
「お前の能天気な振る舞いを見てるのが楽しいかな」
空に飛んだ鳥が鳴いた。予想外の返答に驚きつつも可笑しさに破顔すると、イレーネの雰囲気も僅かに和らぐ。
「らしくないねぇ、イレーネ」
「それを言うならお前もだ、ナマエ」
2008年に書いたものを加筆しました。
20200629