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※腹黒彼女

消去法でいけば、原の案はまず除外だ。山崎と古橋の助言―ということにする―から、変に捻ることなく普段から口にしてるものを渡すのも良いだろうとは思ったけど、食い物を貰って喜ぶ柄でもないだろうという結論に至ったわけで。いや、別に喜ぶところを見たい訳ではないんだけども。

「私はいつまでこんなこと考えてるんだか」

今更になって気がついたのだが、どうして私がここまで苦労してアイツのことをあれこれ考えて苦心しなくてはならないのか。カバンの中に入ってるブツを思い浮かべてなんとも言えない微妙な気持ちになる。原の言葉を無視することが出来なかったのが、自分自身納得いかないし理解出来ない。そして渡すのが面倒くさい、というのが本音だ。とはいえ、買ってしまった以上は渡さないといけない。というか、買っておいて渡し損ねたなんて無様なことになるのは避けたい。ごちゃごちゃと考えながら電話をかけるためカバンに手を突っ込む。

「あ」

姿を見て蹴りたくなった回数は数知れず。見慣れた後頭部に思わず声を上げた。部活の帰りらしく、ジャージを身に纏っている。私を見るといつものように挨拶もなく声をかけてくる。

「一人か」

いつもつるんでるやつらはどうした、と喉まで出かかった言葉をすんでのところで飲み込んだ。山崎に原に古橋に瀬戸。逆にその輩がこの場にいない方がいいに越したことはない。

「そういうアンタも一人か」

さて、いつ渡そうか。そんなことを考えて気を取られていたせいだ。革靴に手を伸ばそうと体が傾いだ拍子に、カバンから滑り落ちたそれがべしょ、と情けない音を立てた。なんつータイミングで。阿呆か、阿呆かと。信じられない。漫画みたいなことが起きて硬直してしまった。

「………」

「呆けてねえでさっさと拾えよ」

いいやもう、このまま渡してしまえ。拾い上げて私に突き出すそれを押し付けてやる。突き返された意図を飲み込めずに居るのか私の手元をジッと見ている。それはもう訝しげに。

「何だ」

「結構本読むし、無難だと思って」

手に持った革靴を放り投げた。

「使わないなら捨てて良いから」

据わりの悪い感触を紛らわそうと爪先と地面をぶつける。花宮の方は見ない。渡した。確かに渡した。だからもう用はない。早く帰ろう。

「ちょっと待て」

「何」

「いきなりこんなもん渡してなんのつもりだ」

「今日、誕生日なんでしょ。有難く受け取る演技くらいしたらどうなの」

手の中の包みを一瞥、私に視線を戻してそこで合点がいったのか、口元が歪な形を作る。人を見下す表情がここまで似合うやつはそうそう居ない。身長差も相俟ってか、私を小ばかにしてくる様子は圧迫感がある。

「ここ数日何を聞いて周ってると思ったら」

「あーあーあー、五月蝿い五月蝿い」

「また雪でも降るんじゃねえのか」

「黙れ死ね、話しかけんな」

馬鹿正直に話を聞いてやることはない。踵を返して歩を進める。

「なあ、悠」

「黙れ、死ね」

名前を呼ばれたけど振り返ってやるものか。罵詈雑言を吐いたところで腹の虫が治まるわけじゃない。だからって来た道を戻って物理で仕返ししようなんて思わないし、これ以上恥の上塗りなんて真似をしたくない。ついでに言うと、しばらく顔も見たくない。

「ちっ」

この数日間の自分の行動を思い返しながら、湧き出てくるありったけの感情を詰め込んで、何度かけたか分からない言葉を呟いた。

「馬鹿」
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