プロローグ
※腹黒彼女
余計なことを言ってきたのは原だった。
「そういや今週末、誕生日だけど何を贈るのー?」
教室移動から帰って来たところ、私の机の前で奴は待ち構えていた。ホームルーム前に違うクラスに顔を出して何を言うかと思えば。全くもって要領を得ない。
「誰が誕生日だって?」
「誰って…掛川ちゃん愛しの花宮以外にいる?」
「愛しくねえよ」
「またまた、素直じゃないんだから」
「愛しくねえって言ってるだろ」
人の話に耳を貸さず、マイペースに話を進めていく原の鬱陶しさときたらいつも以上だ。睨みをきかせても何食わぬ顔をしている。図太い、その図太さを他に活かせ。
「ほら、付き合いだして初めて迎える誕生日って結構重要じゃん」
「…………」
「数々の困難と障壁を前に燃え上がった恋を成就させたんでしょ?乗り越えて結ばれたんだし、しっかりしないと」
「その脳内補正どうにかしてくれない」
「ん?違うの?」
「勝手にして。訂正するの面倒くさいわ」
傍らに立って喋り続ける原はいないものとして、さっさとカバンにテキストを詰め込んでいく。相手にするだけ時間の無駄だ。
「祝ってあげなよ〜」
「するしないは私の勝手だろ。しないけどな」
「顔に出さないだけで花宮も喜ぶと思うよ」
「くどい」
「分かりにくい態度だけど。…まあそりゃそうか」
「は?」
「んじゃ、俺これから部活だから」
原は意味深長な言葉を残し、こっちに背を向けながら私に手を振る。ついでに、ワン・ツー・エルボー、と訳のわからない歌を歌いながら去って行った。
「…で、だから何だよ」
そう割り切れれば、どうってことはなかった。