おちた先で


一週間経っても二週間経っても、伊東の元へ義手が届くことはなかった。主治医は「義手の到着は遅くなる。時期は未定だ」とだけ伝えてすぐさま踵を返して病室を出ていった。突然のことに面食らったのはほんの一瞬で、そのあと伊東は窓から見える空に視線を移してぼんやり眺めている。

「……」

伊東鴨太郎はなんとも思わなかった。

左腕を失ってだいぶ経つ。幻肢痛も弱くなり、腕があった事実は覚えているがどう動かしていたのかもう思い出せなくなってきていた。義手をつけることになったとき伊東は何を今更、と思った。

「つけたから、どうなるというんだ」

服役してから入退院治療を繰り返して無気力に無意に日々が過ぎていくのを他人事のように感じていた。

自身の人生を全くの別物にした転換点。あの事件から既に六年経っていた。

自分の存在を知らしめる。決意を胸に、孤独に道を突き進んでいた。真選組を我が物とすべく画策した計画は頓挫し大怪我を負い、企てた謀反とその罪を問われ服役するにまで堕ちている。今までの人生で築いたものは悉く全てが崩れ去り、掴み取りたかったものは指の間を滑り落ちていった。

何もかもを失くした伊東鴨太郎に何を望むと言うのか。

何もかもを失くした伊東鴨太郎が何を望むと言うのか。

考えれば辛いことしか思い出せない。なんの欲求も湧いてこない。ぼんやりと景色を見ているだけの毎日。ただただ無気力に過ぎていく。

「こんなはずではなかった」

それでも伊東は時折考えてしまう。今までの人生のある局面で本来望んでいたものが得られなかったために、徐々にではあるが道を外す条件が整っていっていたのだとまた他人事のように思った。

「僕は、」

誰に訴えるでもなく、うわ言を繰り返す。水の中へ深く沈んでいくように伊東の心は暗く内向的になっていった。

こうなったのには理由がある。

一時は意識不明の重体だった容体は奇跡的に回復した。左腕の治療とリハビリを終えたのちに伊東は要人暗殺を企てた罪で服役することになった。

取り締まる側にいた人間が受刑者たちと同じ場所にいる。受刑者たちと課せられた刑務作業に従事している。その事実が日に日に伊東の気持ちを蝕んでいった。ある日のことである。片手での作業に難儀している時、一人の男が伊東に声をかけてきた。どこから聞いたのか伊東が服役されてる理由をわざわざ挙げて「馬鹿なことをしたんだなぁお前は」と面と向かって言い放ったのだった。

馬鹿なこと。

結果として他者には愚かしいことと映る。それでも当の本人にとっては違う。己の存在証明のためにしたことである。それを下らないことだと見ず知らずの人間に一蹴されてしまった。当初、怒りはなかった。ただただ言葉の意味を理解するのに時間がかかった。

相手して見ればなんのことはない軽口である。言うだけ言って満足した男は背を向けて作業を再開していた。男の軽口は鋭い矢となり伊東の胸に深く突き刺さった。その時、辛うじて保てていた均衡が崩れ、精神こころがポキリと折れてしまった。虚栄に近かった自己肯定感も、少しばかり残っていたプライドも完全に砕けた。

幼少期から剣の稽古をしていたお陰か体の方は大怪我を負い生死の境を彷徨ったとは思えない回復ぶりを見せていた。それも気持ちが折れるまでで以降は坂を転がり落ちるように体調も崩しがちになった。課せられた作業をこなすどころか床から起きることもままならなくなり入院するに至っている。

なぜ義手を作ることになったのか、と伊東はあまり働いていない頭で思い返した。

まだ主治医が医者らしいことをやっていた頃のこと。カウンセリングの際、剣を握る夢を見たとこぼし存在しない左腕を見遣ったことがあった。それが悪かったか、と伊東は面倒になったことを鬱陶しく思っていた。が、その悩みの種が来ないという。このまま消え失せていく予感がした。その予感で伊東の気持ちは僅かに和らいだ。

――いやに自分に懐いていた部下だった。

六年ぶりに再会した寒河江 ほとりという人間はどういうわけなのか義手を作る仕事に就いていた。その上、伊東の義手を作るのだと言った。理由がわからなかった。

伊東はほとりをただの駒としか見ていなかったし駒としてしか使っていなかった。それなのにその扱いを有難いもののように享受していた。ほとりの、近藤より伊東を信奉するような態度が妙だった。特別なことをしたつもりはないと突っぱねても「わたしには代えがたいもの」と首を横に振り更に伊東を慕っているとまで言った。

「寒河江は僕に地位も見返りも求めなかったな……」

――何故だろう。剣の腕はまだ未熟ではあったが、仕事はできる奴だった。ある程度の高い地位までは登っていっておかしくないはずだった。出世に一切の興味もなかったのか。

伊東はぼんやりと考え始めたものの思考に靄がかかってきてしまいそのまま目を閉じた。難しいことを考えようとするといつもこうなる。それに考えたところで答えも出ないし意味のない問答である。もう二度と来ないだろう、と部下だった女の顔を思い出しながら少し息を深く吐いた。





三週間が過ぎようとした頃だった。薄ぼんやりとした意識で相変わらず空を眺めていると不意にドアがノックされた。違和感から伊東は顔を上げた。普段であればノックもなしにそのまま無遠慮に主治医が入ってくるはずである。

「……?」

なかなか開かないドアを伊東は見遣った。幻聴だったか、何か別の音をノックの音と聞き間違えたか。判別がつかずにいると再びノックの音がした。伊東が奇妙さに返事を忘れていると、ドアの向こうから痺れを切らしたように「入りますね」と控えめに声がした。

「先生、ご無沙汰してます」

重たそうな荷物を持ってほとりが部屋に入ってきた。思いもよらない人物の来訪に驚きつつも伊東は不満を覚えた。静かになったと思ったのに厄介な存在がまた顔を出したわけである。また小煩くなる、とうんざりした。無気力な伊東には、ほとりの熱心さが非常に苦しかった。

「伊東先生、お伺いするのが遅くなってすみません」

ほとりは伊東の顔を見るなり申し訳なさそうにしつつも目を見据えて来訪が遅れたことを詫びる。その後ろには主治医が立っており、いつも通りの無感情な目つきで伊東を見ている。

「少しトラブルがありまして……あ、でも義手に関するものではないので安心してください」

そう言うほとりの表情はどこか硬い。少し顔色が悪いようにも見受けられたし、無理矢理にでも明るく振る舞おうとしているようで空元気にも見える。だが違和感を抱きつつも伊東は特に言及しなかった。全く興味がなかったし、なくなったと思っていた面倒事が降って湧いて戻ってきたのが面倒だった。だからろくに返事もしなかった。したくなかった。

「着用感や可動域が変なところがあったら教えてくださいね」

したところで意味のないものだと思っても反抗する気力はない。促されるがままに義手の装着を待った。だが出来上がったそれを手にしていた女は突然声をあげた。

「……痛……ッ」

見れば腹部を押さえてベッド際で蹲っている。普段は全く無関心でいる主治医でさえ少し焦ったような仕草を見せた上に、妙な緊迫感があって伊東は無視できずに声をかけてしまう。

「……腹痛か?」

「い、いえ、大丈夫です」

脂汗を浮かべて痛みに必死に耐えている様子は只事ではない。体調不良だろうか、と伊東は考えを巡らせる。女性特有の不調なら踏み込むのは些か憚られた。ようやく椅子に座ったほとりを伊東は無感情ながらもやや気にするように見ている。息を吐いて、もう一度義手の装着を始めた。

「腕に当たって痛いところはありませんか」

伊東は左肩から唐突に生えた作り物の腕を見遣っていた。椅子に腰掛けながらその様子を見ていたほとりは調整に使う器具を手に伊東をつぶさに観察している。

「動かしにくければ馴染むように調整していきます」

ひどいものだった。重い上に違和感があり邪魔くさかった。

――所詮こんなものだ。

そう思うと同時になげやりな感情が湧き上がってくる。

――左腕があるから、だからどうしたというんだ。

「十分だ」

「え」

「これでいい」

ほとりの表情が困惑に染まる。

「ま、待ってください。合わない義肢を使ってると体を痛めてしまいます」

言わんとすることはわかった。いい筈がない。何度となく調整を重ねてミリ単位、それ以下の小さな微調整が必要なものだ。伊東はほとりの声色と態度からそれを読み取った。やる以上は中途半端な仕事はしない。ほとりがそういう性分の仕事熱心な女だと知っている。

この職に誇りを持ち今まで一つ一つ丁寧に作ってきたのだろう、と思った。この義手も例外ではない。昔の仕事ぶりを思い返しながら伊東は作り物の腕を見遣る。しかし、どんなに丹精込めて作られたとしても愛着など抱けるわけがない。

「どこが気に入りませんか。肩との設置面が大きいのでそこの調整を……」

――もういい。もうやめてくれ。放っておいてくれ。僕に関わらないでくれ。

伊東はまた顔を背けた。できるなら病室から逃げ出してどこか遠くへ行ってしまいたかった。そんな気力も体力もない。だから顔を背けるのが精一杯だった。

「先生、」

ほとりは自身の腕がまだまだ未熟であることはわかっている。熟練の装具士でも一発でその人に合った物など作れない。幾度となく調整が要るものだ。体に合うものを作るのに妥協はできない。患者側が遠慮することもあるが、伊東の場合はそれに該当しない。

「……これでいい」

もうやらなくていい。拒否的な態度にほとりは愕然として視線を足下に落とした。やはり決定的に超えられない壁が目の前にあるのだと改めて思い知りほとりはやるせなくなった。

「先生。伊東先生」

約束を守れず申し訳ありません。

次いで出そうになる言葉を噛み殺してほとりは逡巡した。なんと言えは思いは伝わるだろうか。伊東は謝罪の言葉を欲しているわけではない。謝るのは的外れであることはわかった。本音を話さねば前に進めない。ほとりは視線を落としたまま口を開いた。

「お約束の期限に義手をお持ちできなかったのは、わたしが入院していたからです」

伊東はそんなことを聞きたいわけではない。ほとりはそれをわかっていた。ただ想いを伝えるためにはここを通らねば口に出すことすら許されない気がした。だから伊東の反応が芳しくないのを見つつ話を続ける。

「三週間前です。二回目の腕の型を取った帰り、路上で刺されました」

本来であればまだ入院していなければならない状態だ。が、頼み込んで外出許可をもらい一旦家に戻り、病院に仕事道具を持ち込み隠れて夜通し作業をしてここに来ている。

それを聞いた伊東は自分の肩からぶら下がっている作り物の腕とほとりを交互に見遣って信じ難いものを前にしたようにまじまじと凝視した。優れない顔色。尋常ではない汗。脇腹を押さえる仕草。子供でもわかるような状況に伊東はようやく合点がいった。

「傷は……」

「まだ塞がってません。安静にしてないといけないそうです」

「……」

「傷のせいで仕事ができないなんて、言い訳に過ぎません」

唖然とする伊東を横目にほとりは腹に手を当てたまま眉間に皺を寄せた。痛みによるものか、または別の感情によるものなのかは判断がつかなかった。

「義手や義足を待ち侘びている人がいます。まだ調整が必要なものもある。これ以上わたしの都合で患者さんを待たせるわけにはいきせんでした」

「……」

「でも、先生の義手を届けるのにこんなに時間がかかってしまっては説得力がないですね。どの口が言うんでしょうね……申し訳ありません」

自重気味にそう言って未だに腹部を押さえて苦しげに呼吸をするほとりを見て、伊東は困惑したように表情を崩して震える声を出した。

「何故そこまでするんだ」

「わたしの仕事は義肢を作ることです。四肢を失くした人が快適に生活を送れるように手伝いをするのがわたしのすべきことです」

「答えになってない」

「わたしは、わたしの仕事を全うするためにここに来ました」

ほとりは顔を上げた。ようやく二人の視線が絡み合う。

「伊東先生。あなたが望まないのであれば、その義手は外してもいいと思います。いえ、寧ろ外すべきです。あなたが自ら望まない限り、わたしは装着することを強要しません」

第三者に言われるがままにする必要などない。ほとり の言い分に主治医が顔を歪めたが気にかけない。

「おい。話が違うぞ装具士。勝手を吐かすな」

「勝手はお互い様でしょう」

食ってかかるのを素気無く対応しほとりは伊東ににじり寄る。義手の装着を決めるのは伊東である。

「伊東先生は治療中だと伺いました。目の前のことで精一杯で体のことにまで気が行き届かないかもしれません。でも今はそれでいいんです」

肯定の言葉に伊東は耳を疑った。この状況を良しとする人間は周りには一人としていない。目の前の女を除いて。

「義手をつけない道もあります。わたしは、あなたがそれを選ぶならその意思を尊重したい」

選択肢を与えられたのは久しぶりだった。この六年間、いつも自分以外の誰かが勝手に決めた選択肢だけを押し付けられていた。義手もそうだった。望んでなどいなかった。

「でも、もしいつか気持ちが変わって、つけたいと思ったのであればその時はあなたのためだけに作ります。あなたが納得するまで何度でも調整をしましょう」

嫌なら嫌と言っていい。そしていつか必要になった時には伊東が思いのまま腕が使えるようにする。そのためにここにいるのだと、ほとりは言った。

寒河江ほとりは槍の雨が降ろうとも病に冒されようとも体が動く限りは伊東鴨太郎に会いに来る。その決意と覚悟が伝わっている。

しかし伊東の乾ききった心は固く閉じたままだ。眉間に皺を作りながら反論する。

「僕に関わったばかりに、君の人生は狂った」

ほとりの人生の転機となったのは伊東の部下となったことだ。武州から逃れるように江戸に来て真選組に身を置くことになったほとりの半生を知る伊東は、かつての部下がこうして接触してくること自体が不可解でならない。

「僕が憎いんだろう」

「いいえ」

ほとりはきっぱりと首を横に振り強い声で否定して続けた。

「憎いなんて。あり得ません」

「見え透いた嘘を……」

頑なに信じようとしない伊東を見て困ったようにほとりは笑った。駄駄を捏ねる子供を見つめるような顔をしている。

「なぜわたしがこの職に就いているかわかりますか?」

「……知らない。わかるはずがないだろう」

でも一つだけ確かなことがあった。伊東は暗い声で続けた。

「……でも君の技術を必要とする人は他にもいる。僕に構う理由が、君にあるとは思えない」

「理由ならあります。わたしはあなたのためにこの仕事に就きました」

思いがけない事実に驚いた。伊東に見合った義手を作るために装具士になったというのにつけない選択もいいのだと言う。揶揄っているのかと言いかけたが言葉になることはなかった。伊東はほとりの嘘偽りのない真面目で懸命な表情に圧倒されいる。

「伊東先生。わたしは一人の男に救われました」

ほとりは口元を少し緩ませた。

「武州であの人に助けられた。色んなことを教わった。手を差し伸べてもらった。それを、わたしがしたいと思った人にしているだけです」

殊更に背筋を伸ばして真正面から伊東を見据えてほとりは話す。

「わたしは、こうしてあなたにまた会えたのをとても嬉しく思います」

伊東の目の前にほとりは居る。癒えていない傷を抱えて捨て置いてもなんの咎などない罪人の元へ体の一部となる作り物を届けるために。更にこうしてまた再会できたことを喜ばしく捉えている。

その真っ直ぐな目から逃げるように伊東は顔を背けたかった。それでも目を逸らすことはできなかった。

磨いた剣の腕前も、参謀という地位で隊士たちを指揮していたのも今や過去の栄光。それらは過ぎ去ったもので伊東の手元にはない。輝かしいはずのものだった。輝かしくなるはずのものだった。存在を知らしめるにはなくてはならないものだった。それが剥がれ落ちた伊東鴨太郎という人間は存在するに値しない。何もかも失くした。自分の存在意義もなくなった。面と向かって人格を否定された方がいくらかマシだと伊東は眉根に皺を寄せて苦々しくこぼした。

「僕にはもう何もない。僕にはもう何の意味もない」

「そんなことありませんよ」

自身を卑下する伊東のそばに寄ってほとりは言う。

「生きていてくれたじゃないですか」

伊東は片腕を失くし、心も壊れてただただ寝て日々を過ごす自分が心底嫌いだった。それを知って尚、ほとりは全てを肯定した。

「存在するだけでいいんです。そこに居てくれるだけでいいんです」

生きていてくれただけでいい。ほとり の声が耳に入ってきた瞬間、体に大きな衝撃が走ったような気がした。それと同時に伊東の視界が滲む。ボロボロと涙が落ちていき服にシミを作った。

「僕は、」

言葉が出てこない。胸の奥でつかえて息が詰まるばかりだ。

「僕には 意味なんて……」

「あなたのお陰で、わたしはここにいます」

伊東が自身を痛めつけようとする言葉をほとりは悉く否定する。ひどい言葉を使い自分を傷つけようとする伊東にそっと手を差し伸べて優しく声をかける。誰一人として気遣う者がいなかったこの場所で、伊東の右手に自分の手を重ねながらほとりは言った。

「生きていてくれて、ありがとうございます」

言い表しようのない感情で胸が苦しくて伊東はろくに返事もできない。ようやく絞り出した声はしゃくり上げるばかりで言葉が紡げない。

「ぼくは、君をただの部下としてしか見てこなったのに……」

「知ってます」

静かに頷くほとりに伊東はますます涙をこぼす。

「どうして僕なんかを」

「言ったじゃないですか。あなたを慕っていると」

生まれて初めて他者から向けられた感情である。言われたまま受け入れるには手に余るものだった。返す言葉がわからない。

「ずっと……必要とされてこなかった……」

見ていて欲しかった。一人は嫌だった。ずっと押し殺して無視してないもとして扱ってきた気持ちが心の底から噴出した。幼い頃の冷たい記憶が過ぎる。拠り所となるはずの家庭でも頼れる者はおらず、他者から排斥される前に孤立を選んだ伊東がどんなに望んでも与えられなかったもの。それに近いものなのかはわからない。それでも孤独よりずっとずっと温かいもののように思えた。伊東は細い声を絞り出した。

「僕は、誰かに、隣にいて欲しかったんだ」

ほとりは伊東の胸中の一端を初めて耳にした。あまりに小さな願いだった。

「伊東先生。わたしは、あなたと一緒に生きたいです」

思いがけない言葉に、伊東は涙で滲む視界で女を見遣る。

「あなたが嫌でなければ……」

言い淀んでほとりは頭を振り、もう一度口を開いた。

「いいえ。わたしがあなたの隣にいます。もう一人じゃないです」

伊東はほとりの手を握り返す。

「寒河江くん……」

「はい」

「すまない。すまなかった」

部下として働かせたこと。事件に巻き込んだこと。こうして会いに来てくれたこと。今までのなにもかも、自分とかかわったほとりに対して申し訳なさが湧き上がってくる。

「わたしもあなたに謝らねばいけません」

諌めず言いなりになっていた過去の自分の行い。伊東に再び会うまでの日々、ずっと胸に抱えて過ごしてきた。謝罪してもしきれないことだと悔いてきた。だが二人の過去はもう動かし難い事実として存在している。ならば前に進む以外にはない。

ずっと止まっていたままだった二人の時間が動き出した。


20230401
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