目が離せない
※高尾の双子姉
数学の問題を解いている最中、ふと目が留まってしまった。教科書の文字を追って伏せ目になっている、彼の目元。睫毛が、とても長い。瞬きする度に睫毛の黒い影。それが目元でチラつく。私は化粧して盛らないとああはならない。だから羨ましい、と思う。
「何をそんなに見ているのだよ」
「いや別に」
「用もないのに人の顔を凝視するのか」
「敢えて言うなら休憩中」
「………………」
言葉を返すのも億劫なようで、いつも以上に眉間に皺を寄せてこちらを見遣る。「馬鹿なことを言わずにさっさと解くのだよ」、と言われているようで渋々自分のノートに視線を戻した。数学は苦手だ。答えが一つしかないから解くのは楽だという奴もいるけど、私にしたら公式とか諸々覚えたりするのが面倒くさい。教科書の問題とノートに途中まで書いてある公式を交互に見て、こりゃ解けそうもない、と諦めて顔を上げた。
「真ちゃん、解んない」
「高尾のような声で言うな。気に障る」
和成の声は気に障るんですかい、と双子の弟のことを少々不憫に思いながら続けた。
「真太郎、この問題全然解らない」
「……悠、本当に数学はからきし駄目なのだな」
どの問題だ?と言いながら少し身を乗り出してノートを覗き込む真太郎。その無防備な一瞬を突いて、黒縁眼鏡を奪取した。驚いて見開かれる瞳。睫毛は長いし目元涼しげだし、睫毛長いし。そして眼鏡を取られたことに憤りを感じているのか、再び眉間に皺が寄る。
「眼鏡を返せ、悠」
「ごめんもうちょっとだけ」
「言っている意味が解らないのだよ」
自分で考えていて恥ずかしくなるけど、美形と言って片付けるには有り余る美貌だと思う。真太郎の裸眼の視力がどれくらいかなんて知らないけど、この距離でも私の顔は見えているのだろうか。見えてない方が、都合が良い。恐らく、彼の顔に見惚れて間抜けな顔をしているに違いないのだから。
目が離せない
(美人過ぎるんだもの)
訂正:20121117
初出:20120730