弄んで

―翔一がその気になってしまったということは、今日はうちに帰れないなぁ。

悠は肌に触れる今吉の手の温度を感じながら考えた。



「これ、バレたらお互いにヤバいんじゃ…」

「バレなければ問題ないで。まあ悠次第やな」

全国から有能な選手をスカウトしてきて入学させるので、必然的に桐皇学園は寮で生活している生徒の数が多い。悠は実家暮らしで寮の規則に深い訳ではないが、感覚的に“これは宜しくない”と勘付いた。この歳の男女が個室で一晩過ごすなら―ましてや恋仲であるならば―やることは一つだ。小ざっぱりした今吉の部屋を眺めて一抹の不安を覚えた。受験を控えた身なのに学び舎で堂々と行為をしようというのか。良いのか、それで良いのか。

「壁薄いからなぁ、あんまり大きい声出すとバレる」

のらりくらりとそんなことを言いながら悠をベッドに押し倒し、慣れた手付きで制服のリボンを解きYシャツに手をかけた。

「や、だからね ヤバいなら止めよう?」

「何でや」

「いや、ヤバいからでしょ」

問題を起こして受験に響いたらどうするの、と言わんとする悠の口を無理矢理塞いだ今吉は、捲れ上がったスカートから覗く太ももを優しく撫でる。

「…んっ」

「そらここでラブホでヤる時みたく甲高い声でキャンキャン喘いだらの話や」

恥ずかしいことに、悠は今吉と体を重ねる度、抑えきれずに悲鳴に近い声をあげてしまう。喉が痛むほどに。この男がなんでそんなに自分の体を熟知しているのか、余裕綽綽な言動を見ていればそれなりに経験はあるんだろうなと口にはしないが思う。いつも精一杯な悠とは正反対なわけである。そんな男が悠の唇を指先でなぞりながら何やら色めいた、そして企みの色を含めた声で囁いた。

「悠次第て、言うたやろ?」

声もらしたらアカンで、とにんまり微笑む今吉は悪魔にしか見えなかった。



私がぎゅうと唇を噛み締めるのに必死なのを知ってて、翔一はわざと弱いところを責めてくる。そうやって、必死に抑え込んでる声を出させようとしてくる。壁薄いからって言ってたのに、バレたら本当にどうするの。

「よう締まる、」

「……っ っ!」

「睨んだって可愛えだけやぞ?」

分りやすい子やな、と腰をうちつけられて私は思わず声を上げそうになった。喉の辺りまで出かかった声を、どうにか息だけにして、やり過ごす。分りやすいってことは、単純ってことだ。その分りやすさを、少しは翔一も学んだ方が良いと思う。正直、翔一は何を考えているのか想像つかない。一緒にいるようになってそろそろ一年だけど、未だに分らない。

「しょ いち…んあ」

「しー、静かに。声出すな言うたやろ?」

「ん、っ  、」

下腹部が疼いて熱い。一杯一杯で、そこに入ってるだけでも体中気持ち良くてイッてしまいそうなのに、翔一は構わず動きまくる。奥まで射し込まれる度に快感の波が襲う。あ、ソコ良すぎる。ぞわりと大きな波が押し寄せるところに気が付いたのか、翔一はそこばかりをねちっこく突いてくる。

「や、っ…」

「嫌な訳ないやろ、こんなに濡れとるのに」

生まれて始めて出来た彼氏が翔一で、キスもセックスもデートも全てが始めてで。足掻いても藻掻いても、翔一の掌の上で転がされてばかり。同い年なのに、妙に大人びている所作に翻弄されてばかりで、悔しいと思うこともあるし、正直頭に来ることもあるけれど。そういうことがある度に私はまだ子供なんだなと思う。おちょくられて、からかわれたりばかりだけど、結局私は翔一が好きで仕方ない。


弄んで
(身も心も)


訂正:20121117
初出:20120808
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