攻守逆転
※木吉の彼女


「すげーな、腹筋割れてる」

ベッドに横になっている私のお腹をぺたぺたと撫で回す鉄平は、珍しい玩具を弄っている子供みたいだ。一応運動部に所属してるんで!という言葉は出ない。というかいちいち口にするまでもない。それよりも私はこの状況が腑に落ちない。

「あのさ、私だけすっぽんぽんてどういうことですか木吉サン?まだパンツ穿いてるけどほぼすっぽんぽんだよね」

「そうだな」

「恥ずかしいんですけど」

「良い眺めだな」

「いやいやいや」

ニコニコしながら何エロっちいこと言ってるんだ。鉄平の頬をぺちんと押さえながら服を脱げ、と促す。二人揃って服を着ていないなら恥ずかしくはない(と思う)。ロックバンドのロゴがプリントされてるシャツを豪快に脱いで私に圧し掛かる鉄平は残念そうに呟く。

「毎回思うんだが、この痣どうにかなんないのか…」

「しょうがないじゃん、組手してたら痣なんか出来て当たり前なんだから」

脛辺りに始まり太ももに脇腹、肩まで体のあちこちに痣がある。鉄平はその痣を少し恨めしそうに見ている。

「悠の痣のないとこを見たことないな」

「引退までのお預けってことで」

「見てるこっちは痛々しいんだぞ?」

そんなに白い肌が好みなのか。と、鉄平の視線が下から上に移ってきて、胸の辺りで止まる。まじまじと見られるのに最初は抵抗があったが、付き合いが長いせいで最近は慣れてしまった。

「ちっぱ」

「おい、気にしてるんだからそれ以上言ったら蹴るぞ」

軽く蹴る方が痛いっての知ってるんだからな、と言うと鉄平はすいませんでしたと素直に謝った。伊達に男の先輩たちと練習してるわけじゃない。そういう事故も起こるから急所に関する豆知識のようなものが増えた。要らないが。

「物騒なことをあまり言うなよ」

「言わせてるのは鉄平でしょ」

睦言にしてはさっぱりしすぎた、売り言葉に買い言葉というには些か優しい言葉を交わしながら鉄平は私の肌に唇を這わせる。大きな背中に手を回すと、一気に体の距離が近くなって体温を感じた。温かいというより熱いような気がする。鎖骨の辺りをやわやわと甘噛みされていると、鉄平の膝のことを思い出し膝を見遣る。

「そういえば、大丈夫なの?」

「ん、何が」

「膝」

「 大丈夫だ」

一瞬だけど、間があった。完治したわけじゃないしちょっと不安なんだろうな、と思った私は鉄平の肩を掴んで上体を起こして、彼の方へ体重を乗せる。するとあっという間に形勢逆転。今度は私が鉄平を押し倒している。突然のことに鉄平はぽかんとしてる。

「え」

「膝治ったばっかなんだから、大人しくしてて」

「しかし」

「良いから。私がする」

この行為で膝が悪化することなんてないのだろうけど、一応念のためね、と言うと鉄平は面食らったような顔をした。そしてふ、と笑って言った。

「悠は男前だな」

「雰囲気ぶち壊すことに関してあんたの右に出る奴はいないね」

なんでそこで男前って言葉が出てくるんだ。これだから冗談が通じない天然ボケは、と思いながらも全てに真っ直ぐで誠実なこの男の性分が堪らなく好きな気持ちが湧き上がった。

「ま、そこもひっくるめて好きなんだけどね」

「可愛い奴め」

大きな手で頭をわしゃわしゃとかき回されて髪の毛が乱れたけど、その行為も愛おしい。鉄平の包容力のある腕の中にいる私は幸せ者だ。緩む頬を抑えきれず、鉄平にしがみついた。可愛いのはあんたも同じだ、とじゃれつけば大男に可愛いという形容詞は似合わん!と返された。ぎゅっと抱き締められて、無いに等しい谷間に顔を埋めながら言った。

「別にこのサイズでも好きなんだからな」

というか悠のおっぱいならどんなサイズでも好きだ、と付け足す。なんて恥ずかしいことをサラッと言ってしまうんだろうこの男は。言いながらかぷりと胸に噛み付いたり、舐めたりして翻弄する。これじゃ私が上になった意味がない。

「私がするって言ったでしょ」

「む、なんだか変な感じがするな。俺が襲われてるみたいだ」

「襲ってる襲ってる」

痴女に襲われるーと抜かす鉄平を無視して行為にうつる。当たり前だけど鉄平も腹筋割れてる。私のとは違って筋肉がしっかり浮き上がってて良い形していると思う。その腹筋の溝を舌先でなぞりながら下を目指す。膨らみつつあるそれを布越しに唇で食いついてみる。

「そうマジマジと見られると恥ずかしいな…」

「今更なこと言わないでよ」

「、っ」

「んむ」

勃ち上がりつつあったそれを取り出し口に含んで、先端を舐め上げると鉄平が息をもらす。様子を盗み見ると、眉間に皺を寄せて必死に声を押し殺している。ここが気持ち良いのかな。鉄平こんな顔するんだ、と初めて見る表情にちょっとした優越感がふつりと沸き立った。夢中になって奥まで咥えたり舐めたりしていると、制止の声がかかった。

「っ ちょっと待て 悠っ」

「んんっ?」

「それ以上したら、ヤバイ」

「ん、分かった」

準備してあったコンドームを手に取った。おい、とまたしても制止の声がかかったけど止めろと言われて止める人はいませんと言いながらちゃっちゃとゴムの袋を千切る。取り出して鉄平のに乗せて、それを口で押さえながら被せていく。口の中がゴム臭い。うぉえ。ゴム臭さに四苦八苦している横で鉄平は自分の目元を手で覆ってしまっている。

「…?何やってんの?」

「悠、それエロ過ぎ…」

「てっぺー、耳まで赤いよ」

適当にやってみたけどこれってエロい部類に入るのか。(口でゴムつけるだけじゃん…)男のツボはつくづく分らない。被さったのを確認して、上に跨ると自分のそこに鉄平のを押し当てて体重を乗せていく。ほんの少し抵抗があって、入り口を押し広げられる感覚のあとに大きいものが胎内に入ってきた。ずん、と存在感のある鉄平のはなんだかとても熱い。ああ、繋がってるって感じがする。そう考えたら体が変に反応して無意識のうちにきゅっと締め付けている気がした。

「…なんか締まってきた」

「う」

鉄平は上体を起こしてぎゅうっと私を抱き締めた。対面座位の形になって、一層深くまで入ってくる鉄平の熱に思わず息を飲む。

「ワリ、なんか襲われてるだけじゃ我慢出来なくなっちった」

「へ…っ」

いくら私が運動部でも男と女では天地ほどの差があると思う。身の危険を感じて距離を置こうと思ったけど、それよりも早く下から突き上げられて悲鳴を上げるだけに止まった。もうそれからのことは記憶が曖昧で二回目まではどうにか、それ以降はほとんど覚えてない。気が付いたらベッドで仲良く鉄平と並んで寝てて、ゴミ箱の中に使用済みのゴムが四つくらいあった。


攻守逆転
(そして再度逆転した)


20120812
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