水面下の情交
※高尾の双子姉
※えろ

「ね、やっぱり家でも名前で呼んでるの?」

「は?」

部活が終わったあと、器具の片付けをしていると同じ部の女子に話しかけられたが、なんの話なのか見当がつかず、素っ頓狂な声をあげた。

「高尾君、下の名前で呼んでるんでしょ?」

「家族だし、そりゃ名前で呼ぶでしょ」

土をまともに払うこともせずに仕舞われてきた器具を収納しておく部屋は薄暗く埃っぽかった。厳重に鍵をかけて部室に戻る。手馴れた作業をしながらも女子の質問攻めは続いている。しかも当たり前なことを何度も聞かれて少々うんざりしている。正直、彼女は苦手だ。あまり話したくないというのが本音である。

「なんかあ、イケメンが一つ屋根の下にいるのって羨ましいよね」

「そう」

「何よそのつれない返事ぃ」

「生まれた時から一つ屋根の下にいるんだよ。そういう感覚ない」

「そういうもんー?」

私だったら変な感情抱いちゃうかもー!と黄色い声をあげる女子を尻目にさっさと着替えを済ませる。汗ふきシートで手足を万遍なく拭き取る。土埃で白かったシートが茶色くなった。

「ねえ、悠。高尾君、家でもあんな感じ?」

「あれが素だよ」

「あ、そうだ。悠、今度家に行って良い?出来たら泊まりで!試験勉強一緒にしようよ」

「泊まりで試験勉強とか遊ぶための口実も甚だしいね」

「良いじゃん、遊びも勉強のうちでしょう?ね、お願い」

話の跳躍、人の言い分を聞かない自己中心的さ、部活が一緒でなければ誰がこの女と会話などするものか。頭でだけじゃなくて股も緩いんだね、と言葉に出そうになるのを堪えスパイクをロッカーにしまって、ドアを乱暴に閉めた。



「なあ、お前と高尾、どっちが上なの?」

「上?」

「ほら、双子でもあるんだろ?どっちが兄だとか、そういうの」

「ああ」

あっちが上、というと窓際一番後ろの席を陣取る俺の前に座っている男子は廊下側の悠を盗み見した。涼しい顔して小説を読んでいる悠の髪は横で纏められていて、こっちの方から見ると耳から項にかけて露になっている。

「で、何」

「何が」

「意味わかんねえこと聞いといてすっ呆けんな」

「ああ、お前と高尾が双子って思えなくてよ」

二卵性だしそりゃ顔の作りまでそっくりなんてことはねえだろ。コイツ馬鹿か。いや、馬鹿だ。女とヤることしか考えてないチャらいサッカー部の補欠だ。練習もまともに参加してねえんだろうな。目線は努めて普段通り、気持ちではとことんまで軽蔑しながらも会話を続けてやる。俺なんでこんな奴の席の後ろになったんだ。クジ運ねえなあ。

「陸上部の練習着ってちょっとあれだよな、際どい」

「は?」

「結構切れ込みっつかスリットみたいなの、入ってるじゃん、横」

あんなので全力疾走だろ?見えちゃう見えちゃう、と性的なことを話題にした時の妙に興奮した声色で言った。耳障りなその声に周りの男子がピクリと反応して何人かが寄ってくる。何?何の話?席の周りと取り囲むように群がる連中の話す声がぼんやりとかすみ始める。

目の前に居るコイツ、正直ぶっ殺したいと思った。ペンケースの中のカッターで刺すのもありだし、窓から突き落とすのもありだ。でもこの糞野郎のために犯罪に手を染めるなんてことはしない。同じように馬鹿になるだけだ。でも内に止めるこの怒りが感情が顔に出た。眉間に、皺が寄った。



暗い部屋の中でも案外見えるもんだな、と思ったのは三十分くらい前だった。カーテンの隙間から入り込む月明かりでベッドの上で寝息を立てている悠に辿り着くのは造作もなかった。タオルを剥いで、寝巻きのタンクトップを脱がせる。何これ、夜這いしてんじゃん。しかも勝手に服脱がせてるし、一歩間違ったら強姦?懊悩しているせいで動きが散漫になってたんだと思う。

「和成、何してんの」

眠そうな悠の声で呼ばれるまで目を覚ましてることに一切気がつかなかった。うわ、俺すげえ間抜け。でも目を覚ました悠は抵抗することもなく、そっと俺の体に手を伸ばした。ぎゅっとしがみ付いて、額を胸板に擦り付けてきた。うわ、誘ってるねこれ。

そうと分かればあとはもう、我慢とか気遣いとかは必要ない。体の隅々まで知ってるし癖も分かってるし、どこが好きなのかも目を瞑っていたって探し当てられる。狂ったように、っていう表現がピッタリだと思う。お互いに甘ったるい言葉を交わすわけでもなくて、ただひたすら獣みたいに腰振ってた。相変らず悠は弱いところばっかされると面白いくらいに体を引き攣らせて涙を流す(たまに潮吹いたりするけどあれは風呂場だけにして貰いてえ)。でもイったかと思えば急に咥えたり上に乗っかって搾り取ろうとするし、逆襲も、二つの意味で怖い。

事が済んだのは夜中の三時過ぎだった。数時間もすれば朝飯を食って、友達と登校してつまらない授業を受けて部活して。いつも通りに過ごす。何事もなかったかのように振舞って、それでも嫉妬の業火に身を焦がすんだ。


水面下の情交
(誰にも知られてはいけない)


訂正:20121125
初出:20120817
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