とある昼下がり
※マネージャー(三年)
※陽泉メンバーがかなりボケてる。ズレてる
※激短
運動部に所属しているなら空腹という感覚は死活問題だ。腹が減ってはいくさは出来ぬ。部活、即ちそれは軍平と軍平が戦う戦争の如く苛烈なものである(と言っても過言ではないだろう)。それ相応のエネルギーを発散するわけだから食っておかないと動くに動けない。如何に巨大な弁当箱に詰め込んだ飯も、育ち盛りの高校生なら食べても食べても足りないだろう。でも、だからって人が作って来た弁当を何の断りもなしに食って良いと思ったら大間違いだ。
「君ら遠慮ないね本当」
「だって腹減ったんだもんよ。何この肉団子超美味い」
「つかワシらの飯じゃろ?これ」
「この煮物、薄味で良いアル」
「エビフライもーらい〜」
三年はまだしも一年の癖にホイホイ平らげる紫原。胃袋どうなってるんだろう。というか君は遠慮って言葉知らないね。劉も断りもなく普通に食べてるし。氷室だけは私が作った弁当には手をつけずに大人しくご飯を食べている。常識人は氷室だけだな。
「悠先輩はいつもツッコミに全力投球で見ていて心地良いです」
「誰のせいだと思ってんの」
体育館を貸しきっての一日練習ともなると、メニューはハードだしこなす量も自然と増える。基礎練習もみっちりやって、ゲーム練習もしてまだ午後の練習があるんだから、ここでしっかり食べておかないともたない。そして氷室、なんで君は私がツッコミ役であること前提で話しているんだ。扱い慣れてるんだから止めてよ、紫原を。
「悠ちん、この間の煮っ転がし入ってない」
「毎回入れて貰えると思わないでよ」
「えー」
「そもそも言葉遣いなってないよ紫原。上級生が誰も注意しないってどういうこと」
規則もなにもあったもんじゃないね。つーか紫原、私を下の名前で呼ぶな。私先輩なんだから。阿呆みたいにでかい一年を躾けようって気概ある日本男児はいないのか、ここには。
「別に言葉遣いなんて誰も気にしてないアル」
「私が気にしてるんだよ」
せめて名前くらいはちゃんと呼ばせようと言ってもメンバーが皆揃って小せえことでカッカすんな、と逆に諭してくる。ここに揃う皆は事なかれ主義ですか。いや別にカッカしてるわけじゃないんだけど。
「ワシはちゃんと苗字で呼んでるが」
「アゴリラは黙ってて」
「良いじゃないですか、アツシはアツシで」
「室ちんー、そこのポカリ取ってー」
「はい」
「良いように使われてるね」
先輩後輩というより雰囲気が友達だ。友達のようでそれは良いのかも知れないけど、一応縦社会の縛りはあった方が良いんじゃないかな。こんなこと考えてる私は頭が固いのだろうか。
「午後練も頑張れそうじゃ」
「相変らず悠の作る飯は美味いな本当」
「箸が進むアル」
「今度は煮っ転がしよろしくー」
「悠先輩、ご馳走様でした」
「氷室いつの間に食べてたんだよ。って、え、あ? 私の分もうないじゃん」
食事を終えて各自解散していく後ろ姿を見ながら、私は空になった大きな弁当箱を覗き込んで肩を落とした。
とある昼下がり
(健康男児達に飯を搾取される)
訂正:20120112
初出:20120820