猥らに憎しみの言葉を吐く犬
※腹黒彼女
※無理矢理注意
※社会人
登録した後ろくに連絡は取らないでいるやつなんてざらにいるが、こいつもその一人だった。震える携帯の液晶には珍しい名前が表示されていて、暫し訝しげに思いつつも通話ボタンをタップする。
『あっ、良かった掛川ちゃん出てくれた』
「何?」
『お〜、相変わらずの塩対応』
「用件は?」
『最近塩対応アイドルとか芸能人とか流行ってるけど掛川ちゃんってその先駆けだよね。まあアイドルでもなんでもないけど』
「くだらないこと話続けるなら切るけど」
『いきなりで悪いんだけどさあ、迎えに来てくれない?』
「誰を」
聞くまでもないけど、と付け加える。予想くらいはつく。
『花宮』
「断る」
『いやちょっと事情を鑑みてよ〜』
「どうせ潰れるほど飲んだんでしょ。知らない」
『ひ、ひど!ご名答だけどひどい!!』
「あーあー、うるさいな。切るよ」
『えっちょっと待って本当に困るんだって』
タクシーの乗せるにしてもちょっとここまでべろべろだと無理。俺明日仕事だし、花宮一人じゃ無理だけど掛川ちゃんと二人なら大丈夫でしょ、というのが原の言い分であった。
「シャワーでも浴びさせたら?冷水で」
『ご無体な』
「節度のない奴が悪い。いい年した大人でしょ。自分の後始末は自分でやりなよ」
『掛川悠様のおっしゃるとおりです』
「おちょくってんのか」
『反省してるからさ、だから』
来てくれるよね、という原の申し訳なさそうな声にため息がもれる。ああ、なんだか絆されてる。原が翌日仕事だというのはどうでもいい。花宮が酔いつぶれているというのも、どうでもいい。それなのにどうしてか、仕方ないな、という気持ちが湧き出た。
「じゃあ、住所、教えて」
迎えに行くから。そう言ってしまったことを、後から悔やんでもどうしようもないけど、どうしてそこで受けてしまったのかと自分自身の思慮の浅さを恨んだ。
*
ただただ驚いて目を見開く掛川ちゃんの口を塞いで見下ろして、意地悪く囁く。
「何で信じちゃったの?」
「……、!!」
出会ったばかりの頃の掛川ちゃんなら絶対信じないし来ないよね。そう昔のことを思い返しながら、後ろで手を掴もうとしたら強烈な肘鉄を食らった。
「っ痛!!」
容赦ない一撃に彼女相手にこの拘束は弱かったと肝に銘じた。さっすが社会人空手部だなあ、なんて痛みが広がる腕を庇いながらも背中を叩く。マウント取ってるのはこっちなんだけどね?状況分かってる?
「―っ、!」
「あ、もろに入っちゃった?」
息苦しさから困惑の色が激しい瞳には並々と涙がこみ上げて、酸素を求めるように喘ぐ口元から涎が垂れる。
「いやさすがにやりすぎたよね、ごめんごめん」
でも暴れて抵抗してくる方が悪いじゃん。挙げ句蹴飛ばしてくるわけだしこりゃ正当防衛かましても文句言われないっしょ。ん、でもこの場合の正当防衛になるのって掛川ちゃんの方か。そう言ったり考えている間にも、掛川ちゃんはまだ苦しそうにせき込んで息を忙しなくする。
「もういいよね。さっさとしたいんだけど」
乱暴にホックを外すと今まで以上の力で反抗をする。背中に力を込めて体を反転させて拘束した腕で殴りかかろうとする。
「ふざけてないで、離せ」
離せと言われてはい離しますって、素直に言うとでも思ってるのかな。いや、思ってないんだろうな。離してくれなけりゃこのままだし、抵抗も反抗も出来ない。唯一自由に動かせる口で喚くしか手が残っていないんだもんね。恨みの言葉を吐くその口でどんな風に啼くのかな、どんな声を出して善がるのかな。
「面白いよね」
同じ口で憎しみの言葉と肉欲に支配された声を発するんだよね。どっちなの?憎たらしくて仕方ないから吐いた言葉が、出た先から淫らに染まる。そういうの大好き。二つが綯交ぜになって最終的には雌犬のようにはしたなく啼いて涙を零すんだ。
「で、どうやって啼いてくれるの」
無理矢理捲り上げたスーツの裾、横にずらしただけの手荒な下準備をして、そのまま捻じ込めば悲鳴が掠れて木霊する。大して整ってもいないから妥当と言えば妥当な反応だけど、どうせそれもすぐになくなる。気持ちが追いつかなくても体が勝手に順応してくれるでしょ。
20151018