陥落までのカウントダウン
※腹黒彼女(花宮とは面識一切なし)で今吉とは親戚
※近親相姦


意地でも声は出さない。唇をきつく噛んで体を駆け巡る熱い感覚をやり過ごすのも慣れたものだ、と自分のことながら他人のことのように思う。

「律儀やな」

「何、が?」

「声」

勃ち上がったそれが中に入れられて数十分経った頃、私の上に乗っかってる張本人は思い出したように呟いた。いつものことだからこっちの方も慣れたけど、相変わらず持続時間がとてつもなく長い。

「…AVみたいにわざとらしく泣く方が好み?」

「んー、悠が泣くならそれも良いかも知れん」

「悪趣味」

「冷たいなあ」

そう言って止めていた動きを再開してゆるゆると私を突き上げる。なんでここまで私の体を把握してんだ、と思うと同時に寝転がっているにも関わらず平衡感覚があやふやになる。頭にくるくらいイイ所を突かれて体が大きく撓った。声で発散出来たら少しはマシなんだろうか。

「こんな従兄妹思いの優しい親戚の名前も呼ばんなんてな。ちっと寂しいもんがあるで」

自分で優しいとか言うなってば。やってることを棚に上げて、全くもって白々しい。首筋をやんわりと噛んでいく彼を突き放すべく至極冷淡に言葉を紡ぐ。

「これの最中に名前を呼ぶことはないよ」

「なんで?」

「だって呼んだら、もう戻れなくなりそうだから」

聞くまでもないけど、こういうのがヤバイってことくらいは知ってるよね?私の問いかけに彼は飄々とした、冷え切ったような落ち着いた声で答えた。

「知っとるけど?」

「ですよね」

「人様にわざわざ言うことやないけど、何がアカンの?」

「え?」

「男と女が肌合わせて何が問題なん?」

罪悪感なんてないようにそう言い放つ彼の表情はおかしなくらい無表情で。動揺も焦燥も恐慌もなにも感じられない。まるで虚無。逆に動揺したのは私の方だった。ここまで無反応だと、底知れぬ不安に駆られてしまって目の前にいるこの青年は恐ろしく怖い存在に見えた。

「けどな、悠」

するりと、頬を撫でながらうっすらと口唇を吊り上げて笑った。まるで悪魔だ。悪魔の微笑み。

「ヤバイ思うてるなら拒絶くらいしたらどうなん?毎回毎回抵抗もしなければ嫌な顔一つせんで。寧ろ安心してるんやろ?」

誰かに必要とされていたい。無意識的な欲求を言い当てられて暫し呆然とした。何をしても埋まらない心の穴にそれがしっかりと組み合わさって、自分自身が何を欲していたのかをようやく理解した。理解してしまった。そして、この行為をどこかで望んでいたのだという己の欲求に絶望した。必要とされたいと願っていた誰かというのが、彼であることも理解してしまった。嗚呼、何かが崩れていく音が聞こえる。

「人肌が恋しいなんてもんちゃう、存在を認めて欲しいだけやんな?」

頬から手が離れていく。体温が、ほんの一瞬名残惜しく感じた。

「呼んだら楽になるんちゃうの?」

的確にそれを言い当てられてぐうの音も出ない。

「無理はいかんで」

緩慢だった動きが少しだけ激しくなった。私にその答えを促すように、認めたくないそれを認めさせようとささやかに強要する。息が詰まる。どうしようもない絶望感に襲われてしまう。言い様のない不安に未だ声を上げることはないけど、それもいつまで保つか分からない。混乱していた。

思考があれこれ交錯していると、彼としっかりと視線が絡んだ。腹の奥底まで、見透かされている。やめて、それ以上私の中を覗かないで。それ以上見られたら、ただただ無防備な私がそこにいるだけになってしまう。だから、お願いやめて。

「なあ、悠?」

前髪を払われて、額に柔らかい感触が触れた。その小さな感触にすら過敏に反応してしまっている。恐らく、今の私は目の前の大きな捕食者に怯えているだけの小動物だ。喉元に牙をつきたてられて、ただその瞬間を待つだけの無力な存在。優しく肉を抉られて血を流して死に至るだけの存在だ。

「ワシが必要としたる、それでええやろ」

「 、っ」

肉は千切られてしまったのだ。ああ、もう駄目だ。もう、戻れなくなってしまう。戦慄く唇が紡いでしまう、貴方の名前を。


陥落までのカウントダウン
(もうそろそろ堕ちてきてや)


訂正:20121207
初出:20120925
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