何気ない日常
※激短
※同級生で彼女


美術室の一角、ビニールシートの敷かれた場所で仁王立ちになって大きなキャンバスと睨めっこしている悠を眺めていること早十分。一体何を見ているのか。美術に聡いわけじゃない俺にしたら全く意味のない行動―というかほとんど微動だにしてない―だ。まあ分かるのは、ジャージに絵の具が飛び散ってるところ。ジャージが汚れてれば汚れてる分だけ捗った証拠だ。一心不乱に筆を執る悠は普段と違って真面目でちょっと狂気的だ。目つきが違うから怖い。近くの机に筆を置いて悠は大きく伸びをした。

「おう、終わったか」

作業を止めてヘッドフォンを外して息を吐く悠に声をかけた。ようやく俺の存在に気がついたのかちょっとビックリしたような顔をしている。

「う、わ、宮地。いつの間に」

「いつの間にじゃねーっての。もう十分くらい待ってる」

「え、早く声かけてよ」

「爆音で音楽聴いてる奴に声かけても気がつくわけないだろ」

毎回ヘッドフォンから音漏れしているから、声をかけても無駄なのは重々分かってる。だからこうして大人しく待ってやってるんだ。何を聴いてるか知らないけど、音楽を聴きながら絵を描くのがこいつのやり方らしい。

「ごめん、すぐ片付けるから」

「はいよ」

他の部員ももう帰ってるってのに毎日毎日遅くまで残ってひたすら絵を描き続ける、想像力と体力と気力がすげえ。どこかのコンクールで賞を取ったとか言ってたような気がする。悠って何気に凄い奴なのか。自分の彼女のことだがその辺はよくわからない。

「って、おい。何してんだ」

「着替え」

「隠れてしろよ」

「宮地しかいないし、いいかなって」

筆を片付け終えてジャージから制服に着替えようってのは良いけどなんで俺の目の前で着替えるんだお前は。凄い奴じゃねえ、確実にただの変人だ。平然と着替え続けて帰る準備の整った悠と学校を出た。

「宮地、お腹空いたからコンビニ寄って良い?」

「賛成。俺も腹空いてんだ」

人通りの少ない通学路を歩きながらこの後のことをぼんやりと考える。家に帰ったら宿題やって風呂に入って、部活のことで大坪とか木村とメールをちょっとして、んで気がついたらもう寝る時間なんだろうな。あー、なんか一日がすげえ速さで終わっていく。

「待たせたお詫びに何か奢るよ」

「お、珍しいな」

悠はしたり顔でこっちを見上げて来て、無い胸を精一杯に張って言う。

「たまには私も気を利かせますってば宮地せーんぱあい」

「変な声出すな」

「いたっ」

友達とかバスケ部の連中とか、コイツと一緒にいると一日なんてあっという間に過ぎちまうけど、こういう風に緩く流れる時間も良いもんだと思う。


何気ない日常
(のんびり一息いれるのも悪くねえ)


20121012
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