気紛れな君に躾を
※寒い冬の日の続き


頑張ったからには褒美をやらねーといけない気がしたが、それが間違いだった。

「た、大変宮地…!」

死に物狂いで勉強をしてどうにかテスト範囲に含まれる単元を理解したらしい。うんうん唸りながら必死にテキストを読んで、俺の説明をノートに書き込みながら問題が解けるようになった。案の定、途中から柚子で遊び出して集中が切れたけど。

「どうしよう…!」

一緒に入ってやるかと風呂場に行って服を脱いでいたら。

「急に胸が膨らんで…ブラに収まらなくなっちゃった…!」

「何してんだお前」

悲壮感漂う声に振り返ると悠が間抜けな格好で立っていた訳だ。ブラジャーのカップに柚子を押し込んで、大袈裟に体を捻っていた。勿論演技だけど。幼稚過ぎるそれは体操着にボールを二つ押し込んで「おっぱい!」とか言ってはしゃいでる小学生の男子と同レベル、下手したらそれ以下だ。無反応な俺を見てきょとんとしてる悠は、何で笑ったりしないんだろうと不思議そうな顔をしている。

「食いもので遊ぶんじゃねえ」

「でもこれ風呂に入れるから食べ物じゃな」

「遊ぶんじゃねえ」

「ふいまへんれひた」

頬をぎゅむっと抓ったら大人しく下着から柚子を取り出した。無理矢理押し込んだせいか胸が圧迫されたようで今度は本当に悲しそうな声でぼそりと呟く。

「やばい…胸が痛い…これは萎むわ…ない乳が余計になくなる…」

そんな簡単に胸が萎んだらえらいことになるな、と脱衣所に悠を放置して俺はさっさと風呂に入る。浴室のドアを閉める音で我に返ったのか「置いていかないで!」と叫ぶ声がした。



「っはー…いい湯だねー」

「…………」

さっきまで胸が痛いだの言ってた癖になんだこの気分の変わりようは。浴槽に柚子を二つ浮かべて、その片方を突いてくるくると回転させて遊んでいる。上機嫌なようで鼻歌を歌い出して(多分ビートルズのAll You Need Is Loveだと思う)柚子風呂を堪能している。付き合ってだいぶ経つけど、悠の気分の切り替わりの早さには驚く。真面目に物事を考えているかと思ったら突然ふざけたことを言い出すし、今も体にダメージを食らって消沈しているかと思いきや、この機嫌の良さ。分かりにくいことこの上ない。

「宮地…何でそんな眉間に皺寄ってんの?」

「おめーのせいだよ」

「私の艶かしい体がなんだって?」

「今すぐ風呂出て耳鼻科に行って来い。鼓膜腐ってんぞ」

「ぶぎゃっ!」

さっき自分でない乳が余計になくなるって自虐かましてただろうが。何言ってんだ。言葉にするのが億劫で指水鉄砲で悠の顔面目掛けてお湯を吹っかけてやった。鼻に入ってしまったらしく涙目になってこっちを恨めしげに睨む。

「ひ、酷いな宮地…!あ、この鼻の奥がつんつん痛む感じ懐かしい…」

「もうちょい味わってみるか?」

「小学校のあの夏に戻れるのならー…是非」

「よし食らえ」

「じょ、冗談だって ぶふ!」

二度目も照準を外すことなく顔面を捉えた。喋ってる途中だったせいもあって今度は口に入って咽ている。咳き込みながらも悠は相変わらずのマイペースだ。

「容赦ない水責めをどうも…げほ」

「水責めじゃねえ」

「こうなったら仕返ししてやる」

指を組んで見よう見真似で水を発射させようとしたけど、スカッとへぼい音がするだけで勢い良く出るどころか変な方向に二股に分かれて出てくる。

「うっわ下手だな」

「これ、どうやんの?」

「仕返ししようとしてる相手に教えを乞うのか」

「それはまた今度にするから、このやり方教えて」

「はー…。手をこうやって組んで…」

「うんうん」

俺の手をまじまじと覗き込んで模倣しようとしていたけど一瞬黙り込んで、興味津々な声色で言った。

「宮地、手おっきいね」

「そりゃお前に比べたらデカイだろ」

「一回り…もっと大きいのかな」

掌を重ね合わせて大きさを比べると、悠の指先は俺の指の第一関節くらいのところまでしか届かない。ほー。結構手は小さいんだなと考えていたが、嫌な予感がした。相手は悠だ。油断していた。その嫌な予感は的中した。

「宮地の手の大きさから言ったら、私の胸なんて掌サイズ以下だね」

「…は?」

「ほれ、この通り」

重なっていた手を離して俺の手首を持って、自分の方に引き寄せた。何が起きようとしてるのか全く想像出来なくて、されるがままになっていた、だからその分衝撃がでかかった。ふにゃり。当たった柔らかい感触にぶちん、と何かが切断される音がした。何が切れたかなんて言うまでもない。目の前にいる悠との距離を一気に詰めた。

「あのなあ」

ぎょっとしたのか、手を組んだまま硬直している。

「み、みやじ…どうしたの」

「悠、俺も男だからな」

「そ、だね」

「ちょっとしたことでスイッチが入っちまうからさ」

「へ、へぇ…そうなんだぁ…」

「せっかく我慢してやってたんだけど」

「お、おう…」

「そういうことされると、歯止め利かなくなるわけよ」

「そ、そうなんすか宮地先輩…俺始めて知ったっすー…」

雰囲気をはぐらかそうとする悠の腕を掴んで言ってやった。でも言ったところでこいつはすぐに忘れるに決まってるから、少し実力行使しようと思う。

「もう少し考えて行動しようぜ?」


気紛れな君に躾を
(何度でも繰り返ししてやるからな)


20121225
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -