譲歩
※アンケコメ:紫原でほんのり甘いの
※陽泉マネージャー


舐めてるんだか、噛んでるんだか。咀嚼する動きを眺めてると、何食べてんの?とかそれ美味いの?とか。途端に頭の中で悶々と聞きたいことが浮かんでくる。あわよくばお裾分けを、と思ってたり思ってなかったり。

「悠ちん」

「ん?」

「それ、飴?」

「うん」

「何味」

「龍角散」

「うへえ」

「ちょっと風邪気味で」

「龍角散無理。不味いじゃん、あれ」

「良薬口に苦し、だよ。悪化させたくないからね」

好き好んでは食べないよ。悠ちんは苦笑いした。んなもん、喉が乾燥しなきゃ良いんだよ。好きじゃないものわざわざ食べないで好きなもんにすりゃ良いじゃん。

「せめて柚子とかはちみつとかさ、あるじゃん。味がいくらかマシなのが」

「カリンとか?」

「そうだよ」

「ああ、そっか」

「なんで忘れるかな…。つかどうして龍角散なんて意味の分からないものを買ったのさ」

「だって効果ありそうだったから」

「適当だなあ」

我慢して不味いもん口にしたって良くなるとは限らないと思うんだけど。悠ちんの口に中からぱきぱきと飴を砕く音がした。

「んー…後味あんまりよくないね」

「それみろ〜」

言わんこっちゃない。口直しにとカバンの中を漁ってるけど龍角散しか持ってないみたいで項垂れてる。

「敦、だめもとで聞くけど…飴一個頂戴?」

「もうない。今舐めてるので最後」

「あれ、珍しい」

「ていうか、だめもとってなんだし」

「ふふ、何でもない」

「はー?」

意味わかんないという俺の言葉に、悠ちんは敦からお菓子取り上げるみたいで悪いから、とまた笑う。取り上げるって、おいおい。俺が幼児みたいとでも言いたげだね。小ばかにされてんだな、俺。

「悠ちんが買ってくれるなら、いいよ」

たかだか二つの年齢差。それに加えてお菓子が好きってだけなのに子供扱い。腑に落ちないんだけど。

「やるよ」

悠ちんから、微かに苦い味がした。


譲歩
(甘いの少し、分けてあげる)


「か、風邪移るよ…」

「じゃあ俺が風邪ひかないように早く買ってよ」


20130217
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