その唇に触れる
※アンケコメ:花宮に執拗に責められる
※腹黒彼女


隙間なく重なる体から、じわりと蝕むように熱が伝わってくる。

「…っは、あ…っ」

蒸し暑い。視界が、ぼやける。

「んぐ、」

「口開けろ」

「やだ」

「っち、」

はいそうですか、って言うこと聞くとでも思ってんの?油断したら意識を飛ばしそうになりながら花宮に口答えすればそれが酷く気に食わないようで。苦虫を噛み潰したような顔をして私を見下ろしてきた。

「じゃあ言うこと聞くようにしてやろうか」

いつまでそのままでいられるか見物だな。花宮は、そう言いながら私に圧し掛かって来た。息が、詰まる。体も、軋んだ。



突っ撥ねる腕が、縋る腕になる。冷ややかな声が、熱を帯びる。

「いっ  あ、あっ」

体は重いしだるいし、出来るならこのままベッドに沈みてえところだが、どういう訳か頭が妙に冴えている。何がそうさせるのか、んなこと悩むまでもない。下で喘いでる奴の所為に決まってる。

「で」

腰を掴む。その手を引き剥がそうと俺の手首を握って来たけど、振り払うほどの余力なんざ残っちゃいないらしい。申し訳程度に力が篭ってるだけで、時たま体が痙攣するのと同時に悲鳴を上げながら爪を立てたりする。

「言うこと聞く気になったか」

「…………」

「まだならねえのか」

「―ひゃっ!」

しぶとい奴。奥を穿てば腰が跳ねる。はじめのうちはただぎこちなく腰を反らせるだけだったのに、最近はやたらと本能に従順な動きをするような気がする。言わねえけど。

「い、いい加減に しろってば…」

「何が」

しつこい、離して。口ではそんなこと言いながら体は素直で正直なもんだ。苦痛とも快感ともとれる悠の表情に、背筋に何かが走る。動けば締め付ける、ただの反射にすら興奮を覚える。もっと苦しそうにしろよ、そっちの顔の方がずっとそそる。力の加減なんか知ったものか。なりふり構わず突き上げる。

「ひ…っ」

微かな声が聞こえたあと、激しく下半身を震わせた悠はシーツを蹴って体内で暴れ回る快感を持て余している。汗で濡れた髪が、首筋を流れた。

「はぁ…っ」

呼吸をすることを忘れていたみてえに、忙しなく肩で息をしながらもさっきの余韻で痙攣してる。外部からの刺激に体が追いつかない。と、いうよりは追いつけなくなってきたらしい。繋がったところが、酷くぬかるむ。

「おい、何回イけば気が済むんだよ」

「だまれ…っ ん」

「罵るのか喘ぐのか、はっきりしねえのな」

「ん ぁ…ひ 」

屈辱的。憎たらしい。羞恥心。張り倒してやりたい。言い出せばきりのない感情の数々を押し留めるように、悠は目を瞑る。その目尻から涙が溢れた。

「大人しく、言うこと聞きやがれ」



人にものを頼む態度じゃない。口の利き方をどうにかしたら。威勢よく言ったつもりだったけど、想像とはかけ離れた弱弱しい声が出た。

「はっ、喋るのもしんどいか」

「う、るさいな」

「意地を張るのも大概にしろよ」

噛み付いてやろうと思ったけど、疲弊した体に力が入るはずもなく。密着してくる花宮の体を跳ね返すことも出来ず、押し当てられる奴の唇を甘噛みしただけになった。

「悠」

花宮に名前を呼ばれたところで記憶があやふやになってしまって、その後のことは覚えていない。


その唇に触れる
(甘苦い口付けを)


20130411
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