喧嘩の残り香
※腹黒彼女
※赤銅色した鉄の味の後日談
※山崎視点


腫れた頬、かさぶたの出来たまなじり。血の滲む口元に青痰。子供が見ても両者間で何をやらかしたのか、一見すりゃ分かる。刺々しい雰囲気に距離を置きたくなる。触らぬ神に祟りなし、その言葉がまさしく似合う。

「いやー、派手にやらかしたね。お二人さん仲がよろしいようで何より」

原の無神経な言葉に二人は一瞬動きを止める。よく言えば陽気、と言いたいところだがこの状況下では事態を悪化させる要因にしかならない。止めろよな、そういう風に地雷を突くの。

「先に手を出したのはこいつだから」

「出させる原因作ったのはどこのどいつだ」

「原因さえあれば殴っても良いって言いたげだね」

「口で言ってもわからねえなら手を出さざるを得ないだろうが。馬鹿かお前」

「馬鹿はお前だ」

「何だ続きやりてえのか?」

「受けて立とうじゃないの」

花宮は手に持っていた携帯を、掛川はページを捲ろうとしていた文庫本を床に同時に放り投げて立ち上がった。そしてほぼ同じタイミングで互いの胸倉を掴み合う。そこまでの流れに一切の迷いも手加減も感じられなくて、反射的に「ひっ」と声が漏れた。

「止めてだの許してだの、後から言っても遅えからな」

「地面に顔面擦り付けて泣いて謝っても許さない」

「泣くのはてめえだ」

どう足掻いても身長差で不利なのは掛川なのに、何なんだその自信。仁王立ちで拳握り締めてるし。花宮も花宮で何でそんなに鬼気迫る顔してんだよ、人殺す気か。やばい。バスケでイライラしてる時より怖い。

「お、おい」

「ここ学校だからそういうの止めておけ」

「ただでさえ顔の傷で目立ってるんだ。今日一日だけでも大人しくしておくべきだな」

自分たちだけが頭に血が上って冷静な判断が出来ていないと理解したらしい二人は、しばし睨み合ったあと突き放すように手を解く。手を離した直後に殴り始めたらどうしようかと思ったが、杞憂に終わった。アイマスクの隙間から喧嘩の始端を見届けていた瀬戸、なにやら小難しい本を読んでいた古橋と飯を食っていた俺は喧嘩が繰り広げられることがなく安心する。が、事が大きくなることを望んでいた原だけが「なんだつまらないの」と舌打ちをした。


20130512
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