理解にかかったタイムラグ
※腹黒彼女
※同棲設定
※秀逸な返しで有名?なネタです。くっそ短いです。ごめんください。ついったーで盛り上がってくれたカビ子さん、まじありがとう。


下腹部が、捩れる。刺される。鈍器で殴られる。蹴られる。握り潰される。痛みの波が押し寄せる毎にその痛覚の種類が変わっているような気がする。多種多様過ぎる痛みに、立っていることすらままならない。たどたどしい足取りで部屋を横断して、お腹を抱えてソファに座り込んでじっと耐える。鎮痛剤を飲もうかと思ったけど、使い切ってしまっていたのを失念していてストックがもうない。薬がない状態のまま、ただひたすら痛みが治まるのを待つしかない。

「どうした悠」

ぐったり項垂れる私を見兼ねて花宮が声をかける。じっとしていることすら辛く、フローリングの床に視線を落としたまま答える。正直、声を出すのも辛い。出来るなら私の格好を見て察して貰いたいもんだ。

「生理痛辛い」

「俺が止めてやろうか」

聞き間違いかと思った。一瞬、余りに酷い腹痛に耳までおかしくなったのかと自分を疑ったけどそんな訳があるはずもなく。珍しいこともあるものだ。何か企んでいるんだろうか、と疑念が沸いたものの、それよりもこの腹痛をどうにかしたくて。それに、折角の申し出を無碍にすることもない。使えるもんは使っとけ、だ。

「助かるわ。薬買ってきて」

あ、しまった。財布はカバンの中だ。えっと、カバンは…部屋のベッドの近くに置いてあったような…。まあいいや、立て替えておいて貰えばいいか。

「お金はあとで払うから。いつも飲んでるやつ、お願い」

「……」

「何?」

「あ、いや、なんでもねえ」

私をじっと見下ろしている花宮は少し肩透かしを食らったような顔をしていた。決まりが悪そうに頭を掻き毟って、いつものな、と言って部屋を出て行った。





花宮が薬を買ってきてくれたお陰で、それから一時間ほどで腹痛はかなり緩和された。とはいえまだ痛みは健在だ。下腹部だけに留まらず股関節から膝辺りにまで鈍痛が広がっている。ブランケットと温かい飲みは必須で、さっきの場所から動かずにじっとしている。

「痛…」

気を紛らわすべく読み始めた本も、時折襲う突き刺すような痛みで中断せざるを得ない。ちくちく、ずきずき、じくじく。この世の全ての痛みが交じるとこんな痛みになるんじゃないの。毎月こんなのになる人は大変だな。

「………」

花宮も黙々と本を読んでいる。一応、礼はした方がいい。コーヒーを淹れる?これは花宮の方が上手い。何か料理でもする?今日のところは何か作る気力はない。…まあいいか、今日じゃなくても。しかし、何でまた薬を買いに行ってくれる気になったんだか。助かったけど、不思議なもんだ。

―俺が止めてやろうか―

なんであんな遠まわしに言ったんだろう。普通に「薬買いに行ってやろうか」とかで良いじゃない。まあ言葉の綾だ。意味が通じれば問題ない。

―俺が止めてやろうか―

読書を再開しようとした時、さっきの花宮の言葉が脳内で反響した。まるでエコーがかかってるみたいに、何度も何度もそれが聞こえて、ようやく気がついた。

「――あ!」

「!?」

叫びに近い声に驚いて、花宮は本から顔を上げた。私としっかり目が合う。私はブランケットを投げ捨てて大股で花宮に迫る勢いそのまま、脹脛に渾身の下段蹴りを見舞ってやった。さっきまで腹痛で唸っていたはずなのに、今はそんなことどうでも良い。一発かましてやらないと気持ちが収まらない。蹴りが直撃した痛みで、花宮は机に突っ伏した。

「痛えな!悠、何しやがる!」

「止めてやろうかって何!?気持ち悪いこと言うの止めてくれない!?」

「過ぎた話を掘り起こすんじゃねえよ!」


20131109
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