歪んだ愛をぶつけよ
※腹黒彼女

体が浮上するような感覚で目が覚めた。視界はほの暗くて、いま何時なのかはわからなかった。いつの間に寝てしまったんだろう、と逡巡したあと私は体を起こした。徐々に意識がはっきりしてきて、自分がこうしてベッドで泥のように寝ていた原因を思い出す。

「この野郎」

背後で静かに寝息を立てているこいつこそが元凶だった。

「悠、」

名前を呼ぶ声に、返事はない。しようにも、喉から掠れた声しか出なかったし、絞り出せても花宮が噛みついてくるもんだからただの唸り声にしかならない。膝を掴む掌が汗で湿って、そして灼けるように熱かった。押さえつけられた手首は直に血の巡りが悪くなって、指先の感覚がまばらになる。部屋は薄暗くて、体は真夏日の日差しを浴びているように苦しくて、視界に火花が散って、胸が苦しくなった。コップに水がいっぱいになって堰を切って溢れ出す、そんな感覚がつま先まで走って。そのあとはもうほとんど覚えていない。

「…くそ」

事に至る経緯はなし崩し的だ、いつものように。いつものことなのに、どういうわけか今日はそれが腹立たしい。重い体を起こして、枕を頭上に振りかぶった。

「…!?」

突然の衝撃に跳ね起きた花宮は、一瞬呆然としていたけど私が物を振りかぶっていることに気が付いて即座に身を起こす。そうはさせるか。

「てめえ何しやが…っ いてえ!」

「うるさい、日頃の恨みだ」

素直に受け取って置け、そう捲し立ててもう一度容赦なく枕を叩きつけた。


歪んだ愛をぶつけよ
(そして享受せよ)


三回くらいそれを繰り返した辺りで悠は肩で息をして、不満げに疲れたとぼやいて大人しくシーツに潜り込む。お決まりの鉄拳制裁でも来るかと思ったら、降ってきたのは綿の塊だった。

「お前の恨みも随分安くなったな」

返事はなかった。


20140713
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