意馬心猿
※大学生っぽい
※クラスメイトで彼女
休み前の追い込みにと科目毎に過大な量のレポートの提出を課せられ、文字通り目の色が変わるほどに追い込まれた悠は最後のレポートを出し終えると解放感からそのままの異様なテンションですっ飛んで来た。
「翔一!!休みだね!!」
「あーあー、分かったから耳元で騒ぐな」
ワシだって今さっき最後のくそ面倒くさいレポート終わらせて、心底疲れとるんやけど。
「引きこもってDVD見よう」
「釣りしたい」
「映画見たら付き合うから、付き合って」
「えー」
「うな重!うな重つけるから!!」
普段なら悠のその短絡的な交換条件にもう一声かけて色をつけさせるもんだが、如何せん寝不足で思考が回らん。ここ数週間は課題最優先できたからいいか、たまには短絡的でも。眠気と自堕落な気持ちが鎌首を擡げる。ええよ、それで手を打ったる。
*
そうと決まれば、悠の行動は早かった。コンビニでお菓子を買い込んでDVDをぱっと見た限りでは10本くらい借りていて、そのままついてきた。どんだけ引きこもるつもりやねん。
「何でワシの家で見ることになっとんの」
「一人暮らしだし私の服とか置いてあるし、いいかなって。だめ?」
「まあ予想出来なかったわけじゃないけど」
ここまで来てアカンとは言わないし言ったら器小さない?どうでもええかもう。疲れたからとりあえず、一息つきたいというのが互いに最も優先したいことだろうし。
「ちと散らかってるで」
「って言っても本ばっかじゃん」
こんなの散らかってるって言わなくない?そう言いつつ悠はワシが課題に使った本を積み重ねてそのまま別のテーブルへ移し、空いたスペースに買ってきたものをどっかと乗せる。勝手知ったるなんとやらやな。
「何から見ればいいと思うー?」
「知らん。何借りたん」
「色々。続いてるやつとか、凄く短いやつとか」
タイトル言わんかい。そう文句言うのも面倒くさい。
「…まあ、好きなもんから見たらええやんか」
「あー、そうだね」
眠気と疲れで会話が噛み合わない。あー、これ面白そうだけど絶対頭使うやつだからこれ後にしよう。アクションもいいね。なんて独り言が聞こえていたのもつかの間。しん、と静まり返った。
「悠、風呂入り…おい」
上着もそのまま、雪崩れ込むように突っ伏して寝込んでいる。それなのに手にはしっかりDVDを持っていて、見る気は満々だったらしい。
「ん」
「風邪ひくで。寝るか見るかどっちかにしぃ」
その前に風呂。そう声をかけると、自分が寝ていたことに気がついてのそりと起き上がった。コートを脱ぎつつ、DVD見るから、と一人ごちつつ風呂場へ向かう悠だったが、その脱力しっぱなしの後ろ姿を見る限りでは途中で寝落ちするだろうと想像は容易だった。
*
「見てへんなら消すで」
「んん、見てるよ」
「目開いてないやろ」
「開いてる」
「今開けよった」
風呂から出て多少は目が覚めて活き活きとしていた悠だが、夕飯を食べ終わる頃にはすっかりとろんと夢心地になっている。それなのに、意地でもDVDを見ると言って聞かない。案の定5分もしないうちに船を漕ぎだして今じゃベッドの上で寝転がっている始末。こんなやりとりを既に2本分費やしている。気がついたら日付を跨いでいる上に悠はまだ見ると言う。ちょっと、いい加減にせえや。
「大人しく明日に持ち越しって考えはないんかい」
「だってこれ三部作だから一気に見た方がいいよ」
「一部二部寝てたやろ」
「一回見たことあるからいいの」
「あー、そう」
「お菓子食べる」
「太るで」
「そりゃ、いつもだったら太るけどたまにはいいでしょ」
眠気を覚ますために、と言うがそれはちゃうやろ。
「どうせ食ったらまた眠くなるちゃうんか。止めーや」
「大丈夫、ちゃんと見るから、見るから食べていいでしょ」
正直そろそろ限界に近いし振り回されるのはちとキツいし、馬鹿正直に付き合うことないわな。もう寝るわ。そう思い立つと同時に、画面の中の主人公にカクテルが差し出される。バーで働く短髪のヒロインと主人公が意味ありげな視線のやり取りとしたあと、場面が暗転する。そこから先が問題だった。
『あんっあ、はあ、っん』
豊満な乳房がガラス製のテーブルに押しつけられて、ふにゃりと歪む。ソファに組み敷かれて穿たれ恍惚の表情を浮かべ、横になる主人公の上に跨って乳房を揺らして一心不乱に腰を振る。
「…!!」
唐突に始まった情交に目を白黒させ動揺している悠を置き去りに、画面の中の男女は激しく互いを貪っている。外国人特有の獣染みた喘ぎ声に、耐え切れなくなった。
「や、やっぱ続き明日にしよう」
あまり耐性がない悠は狼狽のあまり手からスナック菓子を落としながら言う。そして言うが早いかリモコンを手に取り停止ボタンを押そうとする。が、ワシの方が一歩早かった。
「ちゃんと見る言うたやないか。言ったことは守らないといかんで」
寸での差でリモコンを毟り取る。と同時に『ああん』と女が艶めかしく喘ぐ声が重なる。
「いや、でも、また寝ちゃうし」
「ワシは止めろ言うたけど頑なに意地張ったんは誰や?」
というか、何でいきなり見るの止めるなんて言うの?とあからさまな問いをすると悠はまた酷く困惑しつつ画面を盗み見た。ウブなのに興味だけは一丁前にあるのは変わらない。
「いつもやっとることを見るのそないに恥ずかしい?」
「!!」
ベッドで無防備に足を投げ出していた悠が悪い。ゆったりとしたスウェットワンピースの裾から手を忍ばせると大げさに体を竦ませた。
「ちょ、っと やだ…っ」
めくり上げると張りのある健康的な腿。眠気なんてどっかすっ飛んでいったわ。当の本人は気恥ずかしさから、うつ伏せで顔を枕に埋めて表情が見えにくい。目元に掛かっている髪を指先で退けると、悠の上気ついて蕩け気味な瞳と視線が合い、絡む。
「あ、」と声には出なかったものの明らかに気まずい雰囲気を醸す。恥ずかしそうに目を逸らして丸だしになっている股(本人は気がついてないけど尻まで見えてる。ふうん、ピンクか)を隠そうと裾をのばしている。つうか、なんで気まずいのかわからなかったが、隠そうとするその行為でなんとなく分かってしまった。うん、ちょっと考えるだけで悠が何を考えているか理解出来てしまう。下着の上からそこをついとなぞると、なんとなく湿った感触。
「ひ!」
「嘘やろ」
さっきの見てこうなったん?とからかうように耳元で囁くと嫌々しながら枕に一層顔を押しつけて悲鳴を上げる。あらら、やっぱりドンピシャ。その流れで隙間から指を差し込めばぬるりとした粘液がまとわりついて、人肌以上の温度が指全体を柔らかく包み込む。
「ひゃ、ん」
無防備もいいところ、ブラはしていない。キャミソールをめくり上げればあるんだかないんだか分からない、小振りな胸が顔を出す。
「やだ、明るいのどうにかして」
「別にええやんか、眩しいわけちゃうやろ」
「ま、眩しいんだってば」
「手で顔を覆っておいてそらないわ、悠」
嘘ならもっとマシな嘘つかんかい。指摘するとおずおずと指の隙間からこちらを覗く。困って下がる眉にはだけて露わになった胸、膝まで降りてるショーツ。誘ってるんか、その格好は。
「眩しい」
「女は雰囲気で、男は視覚的に得る情報で一番興奮するんやて」
だから明かりは消さん。にんまり笑うと、意地悪!と喚く悠を再度押し倒してしまえばあとはなし崩しだ。肌に触れるとそれっぽい反応をするもんだから、おふざけで始めても結局最終的には致してしまう。
「うう、ん」
行為に没頭している間に映画はだいぶ先に進んでしまって、前後関係が掴めない以上はただのフィルム。つまらん。リモコンを手に、チャプターを戻す。
「おっと、手が滑った」
「!!」
そんなわざとらしいやり方があるか!悠は不満げに言うけど再度再生され始めた情事に画面からもの凄い早さで目を逸らした。画面いっぱいにたわわな乳房が二つ。悠もこんくらい豊満なら全く同じシチュエーションで犯してもええな。
「やめてよ。恥ずかしい」
「熱心に見る言うたのはどこの誰やったかな」
「私だけどさあ…… あっ」
素直に白状するのはええ心がけやな。でもだからってやめるわけじゃない。ぬかるんでいる陰部に再度指を差し込むとなんや、満更じゃないその反応。
「ふ、ん」
枕を抱き寄せてささやかな抵抗を試みるも、悠は鼻から抜ける色っぽい声を出した。いつもは色気より食い気の癖にな、反則や。指を動かす度、にちゃにちゃと狭い肉襞をかき回す音が鳴る。意地でも抵抗の色を薄めなかった態度はどこへやら。すっかり快感に骨抜きになった悠は背中を反らし、膝を少したてて腰を上げて一層奥まで引き入れようとする。
「やらしーなぁ」
「んんん、くすぐったい」
あんまり息かけないでよ、と振り返り様に囁くその表情は完全に出来上がりつつあるのを顕著に表していた。ぞくぞくと体の中心から戦慄が走る。血が巡って細胞一つ一つが目を覚ましていく。目の前の痴態を目にして、なおかつ久方ぶりの行為の雰囲気と匂いに酔いだしたらしい。
「くすぐったいの嫌いか」
「痛いよりはいい ん」
強く中を抉る。悠の腰がしなって、腿に手が挟まれる。柔らかいそれを押し退けて、更に奥に。さっきもっと奥にと催促したのに答えるように、指が攣りそうになりながらもそれよりも奥に触れることしか考えない。
「ひ、んんっ」
ぴちゃりと掌に水っぽい感触が。滴る水滴を悠のシャツで拭き取る。眩しいと文句を言っていたのを忘れたのか些末なことだと捨て置いて身を投じることにしたのか。迎える準備が整い出来上がった悠の強請る目つきに誘われるがまま、肌を合わせて貪った。
意馬心猿=情欲をおさえがたいこと
20150405