考え、思い返す
※腹黒彼女
※モブが出張って花宮出て来ない上に若干下ネタ
いつやってくるか分からないものを抱えるのは嫌だけど上手く付き合うしかない。早かったり遅かったり体の主の意思とは裏腹に、不調へ引きずり込んでいく。ホルモンバランスだから、どうしようもないとは思うけれど。
「ごめん、あったら一枚欲しいんだけど」
更衣室で着替えていると、申し訳なさそうに言うクラスメイトの姿があった。天真爛漫でありながら、歯に衣着せぬ物言いで毒を吐いても距離をとるどころか、そういう気持ち分かるかも、と歩み寄りさえする。妙に馬が合う珍しい人物だった。
「また?」
「ん〜、ごめん。最近ずっと不定期で」
「いいけど。次、体育だよ」
「薬は飲んだ」
勢い良く着替え出す様子だけ見れば元気そのものだ。そんな彼女と終了したかと思えた会話を引っ張り出しながら下駄箱へ向かう。脈絡のあるような、ないような。
「ヤッたら生理痛が軽くなったり、一定周期で来るって言うじゃん」
「え」
「聞いたことない?」
「…ないね」
「いやなんかね、私も詳しくは知らないんだけど。子宮の位置っていうか、据わりが良くなるらしいんだよね」
聞こえてきた予想外の単語に面食らって横顔を凝視する。
「何さ、その顏」
「あ、いや」
表情を覆い隠すように掌で口の辺りに当てる。嫌悪感を隠しもしなかったようだ。そんな反応を目にしておきながら、「悠はこういう系統の話好かないねえ」と笑う。というより、そういうことを大っぴらに言うことを好かないだけだ。女子しかいないとはいえ、憚られる。
「不定期だし重たいし、私はバランスが崩れてるんだろうね」
恋でもするか、はたまた彼氏でも作るか…いや部活で忙しいからそれどころじゃないや。ボヤキながら外履きに履き替えてグラウンドへ向かう。
「位置ってそんな簡単に戻るもんかな」
「内臓が弱い人って姿勢が悪いって言うけどね」
「整体行くべきかな」
「さあ」
「悠はちゃんと来る?」
答えたくなかったらいいよと言うので黙っておこう。周期的にはなった。以前は酷いもので二週間置きだったり、かと思えば二か月来なかったり。周期の長短の変化はあってもある時だけが前倒しになったり遅れたりということはあまりない。
いつから、と思い返すと否が応にも浮かんでくるのは、私を小馬鹿にして見下し、人相も良いとは言えない、認めるのは癪だが頭脳明晰の、あいつ。強引に体を開いたこと。なし崩し的ではあるけどそれを受け入れたこと。それが今や当たり前のように皮膚に触れ、肌の熱を感じ、抵抗するにもどこか諦観がある。そして、結局は与えられる全てを享受する。
―ヤッたら周期的になるって言うじゃん。
指定の周回を走り終え、日差しを避けるため木陰に逃げ込む。やや湿っぽい土の薫りも冷たい風も汗ばんだ肌にはちょうどいい。
「しゃがみ込んでどうしたの」
「………」
私の顔を覗き込んで顔色が至って健康であることを確認した上で、友人は隣に座った。
「貧血、じゃなさそうだね」
「大丈夫」
体育の授業で持久走する意味ってあるのかな。もっとそれっぽいことしたいよね。バレーボールとかバスケとかさ。まだ強めの日差しの下、残りのグループが走っている。球技は得意ではないから陸上競技の方がいくらかマシだ。バスケは、なるべくやりたくない。
板張りの床に当たって反響するボールの音。あがれ、と指示を出す声。相手三人を牛蒡抜きにして得意のショットを決める後ろ姿。目が合う。でもそれは一瞬。刹那の後には、ボールの行く先を追って走り出している。不覚にも、目が離せなかった。
「花宮くんのこと考えてる」
「!!」
意味ありげな目線を投げかけられ息が詰まる。考えた、ではなく思い返してはいた。断じて、考えてなんて。持久走で流した汗とは違うそれが背筋を伝う。
「うっそぴょーん。当てずっぽうですぅ」
口から出任せ、なんの根拠もないし、からかっただけですよ。死語でそう打ち明ける彼女は満面の笑みを浮かべている。だが、本当に当てずっぽうだったのか、その真偽はいい。こいつはここで絞めておかないと繰り返してネタにするんだろう。その話題に今後一切触れるな、と警告をしなければならない。
「アンタさぁ…」
「あっ」
誤魔化しのそれに全く効き目がないと判断し、更に逆鱗に触れたと察知したのか「ちょっと喉が乾いた」とわざとらしく逃げて行く友人の後を追いかけた。
20150923