嫌という程に合ってしまう
※腹黒夢主
※移転前サイトの拍手お礼文を加筆修正
不定期に寝返りをうつ様子から眠りが浅いと察しがついたが、動く度にこっちも目が覚めてしまっては迷惑千万。堪ったものではない。
「さっきから動きやがって、何だ」
「据わりが悪くて気持ち悪い」
「寝れないのか」
「ん」
呻き声で返事をする悠はまた身動いだ。数秒ごとに物音を立てるのがわざとではないと察しがつくが、随分としつこい。時計を見ると短針がそろそろ1を指そうとしている。はあ、とため息を一つ。
「これ以上続けるなら他所で寝ろ」
「言われなくても」
そのつもりだ。徐に起き上がって悠はベッドから這い出てリビングに向かう。恐らくソファで寝るのだろうと考えて、広くなったベッドの快適さを満喫する。自分以外に音を発する者がいないというのは気楽だ。何に気兼ねすることもないわけで、解放感に緩んだ気であっさり眠りこける。
が、その微睡みの中でベッドの傍に人がいることに気が付いた。その瞬間、肩に何か芯のあるものを当てられた感覚と同時に体がぐるんと反転した。
「!」
「やっぱりここで寝る」
悠の声、肩に当たった芯のある何か、俺が寝転んでいた場所にこいつがいる。悠が俺を蹴飛ばしやがったことを瞬時に理解した。何事もなかったかのようにベッドに潜り込もうとするが、はいどうぞと迎えると思ってんのか。起き上がって悠の行く手を阻む。
「いてぇな」
「喚くな五月蝿い」
強めた語気に臆するどころか、喧嘩上等だと言わんばかりの口応えをする悠は鼻で笑う。
「つーかここ私のベッドでしょ。気に入らないならアンタが他所で寝ればいい」
「どこで寝ようと俺の勝手だろうが」
「人の寝床に乗り込んで来たんだから蹴られようが文句言えないわ」
「ここが誰の家だか忘れたわけじゃねえよな」
「話を逸らすな」
売った言葉に棘をつけて投げ返され、買った言葉をかなぐり捨てた。しゃらくせえ実力行使だと、互いの胸倉を掴んで一触即発の雰囲気なったのはごく僅かで、この先続くだろう体力の消費と怒り、睡魔を天秤にかける。これからする行為は無駄そのものだ。
「阿呆らし」
「止めだ」
考えた結果、違いに相違なくその気がないのを察知して同じタイミングで小言を零し、手を離してベッドに入り込んで背を向ける。そのままアラームが鳴るまで、俺も悠も一度も目を覚まさなかった。その上、妙に目覚めがスムーズで天気はそこそこにも関わらず心身ともに頗るよかった。
「癪だな…」
「なんか腹立つ…」
昨夜から、何から何まで足並みが揃う。喧嘩を吹っかけるのも、それを捨て去るのも、眠りに就くのだって、小言を言うのだって何から何まで。好きで揃えているわけではない。互いの顔を見合って、またもや同じタイミングで舌打ちをして、各々そっぽを向いた。
20200612