HEAVEN | ナノ



「おはよう、太陽」




  病院独特の匂いのする廊下を一定のペースで歩き、白いドアを開ける。あれ、いつもなら真っ先にオレンジ色が目に飛びこんでくるのに。空っぽの部屋をキョロキョロ見渡しながら足をもぬけの殻となったベッドまで進めた。どこ行ったんだろう、と思った直後、さっき開けたドアの向こう側から怒鳴り声とそれに謝る声の二つが聞こえた。




「安静にしとかないとダメよ、太陽くん!」
「でも僕、サッカーがしたいんです」
「先生から禁止されてるんだから、したらいけません!」
「そのセリフもう聞き飽きましたよ。……あっ、恋季!」




  私の存在に気付いた太陽が駆け足でそばにやってきた。おはよう、と言うと今度はちゃんと返事が返ってきた。冬花さんにも挨拶する。冬花さんは私におはようと返したあと、もう病院から出たらダメよ、と太陽に注意して病室から出ていった。毎回毎回冬花さんも大変だなぁ。いくら注意したって太陽は反省せずにサッカーをするために病院を抜け出す。いなくなった冬花さんに同情したあと、目線を太陽へと持っていく。




「またサッカーしてたの?」
「ああ、我慢出来なくて」
「いっつも注意されて嫌にならないの?」
「それ以上にサッカーが好きなんだよ」
「ふぅん…」




  私には分からない感覚だ。私なら毎回毎回注意なんかされたら、もう嫌になってやらないんだけどなぁ。太陽は違うのか。つい数分前に怒られたばっかりなのに全部ヘコんでる様子もなく、むしろ上機嫌で鼻歌を歌いながら太陽はベッドへ寝転ぶ。あ、この歌私の好きな歌だ。ベッドの横の椅子に座り、太陽の鼻歌と合わせて頭の中で歌を流す。




「なぁ、恋季」
「ん?何?」
「もうすぐホーリーロードが始まるんだ」
「ホーリーロード?何それ」
「日本一の中学校を決めるサッカーの大会さ」
「あぁ、昔から太陽がよく話してたやつ?」
「そうそう。」
「それがどうかしたの?」
「僕、出れるかな」




  どこか寂しそうな顔で天井を見上げながら太陽がそう言う。そんな顔、太陽らしくないよ。「神様にお願いしたら、きっと出れるよ」そうかな?と聞く太陽に、うん!と自信満々で答える。




「私も一緒にお願いするよ」
「恋季もしてくれたら、もう出れるも同然だ」
「だ、か、ら。今は安静にしてなきゃダメだよ」
「わかってるって!」




  本当にわかってるのやら。でも寂しそうな顔はどこかに行ってしまったみたいで安心した。やっぱり太陽には悲しい顔は似合わないよ。







20120205


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