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「試合に出ないで」




  退院の準備をしている太陽に、私はそう告げる。大きい目が少しだけ揺らいだ。「恋季?」名前が呼ばれる。ああきっと、私が今までこんなこと言ったことないからびっくりしてるんだろうな。それもそうか、昨日はあんなに試合に出れるって喜んでいた人物が今日になって出ないで、なんて。




「私、今までずっといい子ぶってた。」
「太陽がサッカーするのを応援してたのは本当、」
「でも、でもそれでも、太陽が危険な状態になるなら私はサッカーしてほしくないって思ってた」




  私も太陽も表情は変えない。お互い見つめあったままだ。もしかしたら太陽に、ここから出て行ってって言われるかもしれない。僕の前からいなくなってって言われるかもしれない。それくらい太陽はサッカーに命をかけてるから。太陽のサッカーを否定した私に失望するだろう。




「太陽のことが本当に大切だから、だから心配なの。」
「……」
「神様ばっかりに頼ってないで、自分でも太陽のためにしてあげたいって、」
「……」
「これが私に出来る、太陽が幸せになれること」
「…違うよ」
「違わない!」
「恋季の気持ちは分かる。でもそれじゃあ僕は幸せになんかなれない!」
「試合に出てサッカーして死ぬことが幸せだって言うの!?」
「サッカー出来ずに生きるより全然マシさ!」
「嫌!そんなの絶対に嫌!」




  声の限り私達は叫んだ。こんな大声出したの初めてかもってくらいに。




「恋季はずっと僕のそばにいてくれた。病気の僕のそばに、ずっといてくれた。」
「……」
「感謝はしてるよ。でも、これは僕の人生だ。自分で決める」
「…嫌だよ、太陽」
「何て言われても、誰に止められても、試合には出るから」




  出していた荷物を全て鞄に入れ、太陽は病室を後にした。一人残された私は立ちすくむ。目尻に浮かんでいた涙が溢れ出す。「…っ、いなくならないで、」涙で滲む目で窓から空を見れば、太陽が沈もうとしていた。







20120212


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テーマ「人外ファンタジー」
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