Let's! | ナノ



空からバケツをひっくり返したような雨が降るのをみて、思わず目を背けたくなった。「雨ふるなんて、聞いてない…!」今朝見た天気予報じゃ雨が降るなんて言ってなかった。せっかく練習がなくなったからたまってたテレビを見ようとしたのに…。これじゃ帰れないじゃないか!




「何してんの?」




ふいに後ろから聞こえてきた声に振り返る。「狩屋くん…、」そこにいた人物の名前を呼ぶ。




「傘持ってきてなくて…」
「ふーん…、」
「狩屋くんは持ってきたんだね。偉いなー」
「や、これ前持ってきたとき、降らなかったから置きっぱなしにしてたやつ」
「なるほど、」




狩屋くんの手に握られてる黒い傘を見る。いいなー、私も置きっぱなしにしとけばよかった。とそう苦笑いしながら言うと、狩屋くんは考えるそぶりをする。




「あー、えーっと、」
「どうしたの?」
「いや、だから、その、」
「狩屋くん?」
「……ほら!」




その言葉と同時に黒い傘を私へと差し出す。わけがわからず「え?」と傘から狩屋くんへ視線を向ける。「使えってことだよ!」少し怒鳴り声まじりに言う狩屋くん。心なしか頬が赤い気がする。




「い、いいよ悪いし…!」
「いいって言ってるだろ!」
「でも狩屋くんが…」
「俺はいいんだよ!」
「え、やっぱり…」



何で怒り気味なんだろう、という疑問はこのさいほっといておく。貸してくれるってのはありがたい。でもだからって狩屋くんが濡れて帰るのは嫌。どうしようか、と迷っているとパッと名案が浮かんだ。




「そうだよ!一緒に入ったらいいんだよ!」
「…は?」
「そしたら何も問題ないよ!」




口があいたままの狩屋くんに「一緒に帰ろ!」と言う。数秒沈黙な続いたあと、呆然とした狩屋くんが「…あ、ああ、」と答える。




「ありがとね、助かる」
「困ってる奴ほっとくわけにいかねぇし。たとえ神崎でも」
「はいはい、」




私と狩屋くんの家は、そこまで遠くもなければ決して近くもない。頭で狩屋くんの家まで行って、傘かしてもらおう。と考えながら本来は曲がらないといけない角をそのまま進もうとすると、なぜか狩屋くんは曲がろうとした。




「狩屋くん家こっちでしょ?」
「神崎の家はこっちじゃねぇかよ」
「な、何で私の家の方行こうとするの?」
「は?何言ってんだよお前…」
「え、何が…」
「お前傘ないんだから、家まで送ってくんだろ」
「え、えええ?」




行くぞ、と狩屋くんが角を曲がる。悪いなぁ、と思いつつも狩屋くんについて行った。ふと前に霧野先輩に言われたセリフを思いだす。


狩屋は優しい奴だと思うぜ?


言われたときは納得出来なかったけど、今なら分かります、霧野先輩。




「本当にありがとうね、狩屋くん!」
「…お礼だよ、」
「え?」
「前の絆創膏の分のお礼!」




あの狩屋くんがお礼をするなんて…、と真っ先に思った。それにしても絆創膏とこれじゃ釣り合わないな、と思うと何だか笑いが込み上げてきて雨空の中私は笑った。




世界に散るひかり




20120129