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「いてっ」




聞こえてきたその言葉に隣を見ると、狩屋くんの薬指から血が出ていた。今は家庭科の授業中。実技ということで裁縫をやらされている。きっと狩屋くん、針で刺しちゃったんだろうな。と勝手に推測した私は心配の声をかけた。




「大丈夫?」
「あー、うん」
「ちょっと待ってね、」




机にかけてある鞄からポーチを取り出した。その中から絆創膏を探しあてて狩屋くんに、はい、と差し出す。




「なに」
「絆創膏だよ。ケガしたでしょ」
「……ふーん、」
「どうかした?」
「てっきり優しい圭華ちゃんが舐めてくれるのかと思った」




は?と思わず出そうになった声を飲み込む。狩屋くんはいつもみたいに意地悪な笑みを浮かべている。こんなこと言われて黙っていられない性分なので、不思議と冷静な私は反抗する。




「いいよ、舐めてあげる」
「…え?」
「なーんて、冗談に決まってるでしょ」




そう言って狩屋くんの薬指に絆創膏を貼る。狩屋くんは私の言動にびっくりしたのか、顔をだんだんと赤くしたあと「ムカつく…!」と言った。




「いつもの仕返しだよーだ」
「たちが悪いだろ!」
「最初にふったの狩屋くんでしょ」
「っ…!」




言い返す言葉が見つからないのか、狩屋くんは言葉をつまらせる。今回は私の勝ちだ。とやってもいない勝負の結果に心の中でガッツポーズをした。




魔法に小さな嘘ひとつ




20120129