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「狩屋くーん!」




名前を呼んでもそれに対する返事はなく、私の声は空気へ消える。やれやれ。私はその場でため息まじりの苦笑をする。遡ること数分前。部室に行ってみれば眉間にシワを寄せた霧野先輩の姿が。どうしたんですか?と聞いてみたら、狩屋にユニフォームを奪われたとのこと。相変わらずいたずらっ子だなぁと思い霧野先輩を哀れんだ目でみた。しかしその霧野先輩がカッターシャツにユニフォームのズボンだなんてあまりにもイケてない格好をしていたもんだから、余計可哀想に思い狩屋くんの捜索を手伝っているということだ。
もうすぐ部活始まってしまう時間になってきたので、焦って狩屋くんを探す。さすがに部活の時間になれば戻ってくると思うんだけど。ていうかそう信じたい。もしかしたらもう戻ってるのかも、うん、きっとそうだろう。私もそろそろ戻ろうと校舎の角を曲がればいきなり人が出てきてもちろん衝突。「ぶ!」とつい出した声が恥ずかしい。




「いてっ」
「いたた…、すみません…。………て、狩屋くんじゃん」
「…何だ神崎か、」
「何だとは何だ」




って、そんなことはどうでもよくて!もう部活始まるよ霧野先輩怒ってたよ謝らないとダメだよ。とりあえず言いたいことを伝えたら、きょとんとした狩屋くんの顔。ユニフォーム取ったの俺だって分かってたのかよ、ボソッとそう呟いたのを聞き逃さなかった。あれ、狩屋くんて気付いてないと思ってたのかな。こんなことするの狩屋くんぐらいしかいないし、私が霧野先輩の立場だったら絶対狩屋くんだと思うけど。心の中でとても失礼なことを考えていると、私がきた方向から霧野先輩の声。きつめの声だからこれは狩屋くんかなり怒られるなぁ、と思った瞬間、




「やべぇ!」
「…えっ?」





唐突に手首を掴まれて全力で走らされた。え、一体なにが起こってるの。状況を整理する暇さえ与えてくれない。なんせ手首を掴まれてるので、狩屋くんについて行くことしか出来なく走る走る走る。しまいには階段も上がっていく。ちょっと待って狩屋くんと私の体力の差を考えて…!




「…ふぅ、ここまで来たら大丈夫だろ…」
「………」
「神崎?」
「……つ、疲れた…」




倒れるように地面に寝転がった。ひんやりしたコンクリートが気持ちいい。こっちは一生懸命走ったのに「体力ねぇな」という狩屋くんを殴りたくなった。今殴ってもへなちょこパンチだろうけど。




「…ていうか、なんで私まで…」
「…つい?」
「…何それ」
「とっさにだったから、さ…」
「……ふふっ、」
「神崎?」
「あー楽しかった!」
「…は?」




私の発言に目をまん丸にする狩屋くん。疲れたけど、楽しかった!ありのままの気持ちを言えば変な奴と返ってくる。




「部活間に合わないね」
「…そうだな」
「もっと霧野先輩に怒られちゃうんじゃない?」
「遅れた分はお前もだろ」
「まぁ、二人一緒なら怖くないか!」




霧野先輩怒ったら怖いけど、狩屋くんがいれば大丈夫か。挑発してさらに霧野先輩を怒らせそうだけど。




「あのね、狩屋くん。」
「ん?」
「私ね、最初は狩屋くんに意地悪されるの嫌だったんだけど、」
「……」
「何か最近は嫌とは思わないんだよね。それが当たり前っていうか…」
「……」
「慣れって怖いね!」
「何だよそれ」




ほんと変な奴。そう笑う狩屋くんに心臓がうるさくなった気がした。うわ、何これ!どうして私こんなドキドキして、




「神崎、俺さ、」
「え、うっ、うん」
「最初はお前のリアクションを楽しんでただけだけど、」
「うん…」
「いつの間にか変わってたみてぇ。」
「変わってた?」
「…あ、えー、つまり、」
「……」
「あー、だからだな、その…」




両手で頭を抱え込むようにして疼くまる狩屋くん。相変わらず私の心臓は高鳴っている。こんな感覚、初めてかもしれない。まるで時を刻むかのように心臓が鳴る。もしかして、私、




「神崎が好きなんだよっ!」









これぼれ落ちたもの、ぜんぶきみへの






20120311