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今日の私は機嫌が悪い。どうしてかっていうと、昨日の夜に繰り広げられたお母さんとの喧嘩のせいでなんだけど。喧嘩の原因は忘れてしまった。きっとしょうもないことだったんだろうなぁ。
葵ちゃんに朝会ったときに、黒いオーラ出てるよと言われたくらいだから、きっと周りから見ても分かるくらいなんだろう。さすがに空気を悪くするようなことはしちゃダメだな、と学校では平常を保って普通に過ごした。で、問題は部活の時間だった。




「何か今日いつもと違くね?」
「…はい?」




先輩達は終礼が遅れているのか、部室には私達一年生しかいなかった。ポツンと座っていた私に、狩屋くんは話しかけてくる。ああやばい、今狩屋くんといつものように言い合いしたら爆発しちゃう。口調がキツくなってしまう。いや普段からキツいんだけど。




「別に普通だよ?」
「…ふーん、」
「何その納得いかない顔」
「いや、今日は大人しいつーか…」
「いつもは煩いってことですか」
「何かあったんだろ」




私の言葉なんて見事にスルーで狩屋くんは聞いてくる。理由言ったら狩屋はしょーもねぇ、とか言ってバカにしてくるんだろうなぁ。でもあんまりにもまじまじ見てくるから、そんなに聞きたいのかなと思い言うことにした。




「……喧嘩したの。」
「誰と」
「お母さん、」
「どうして」
「…原因は忘れちゃった」




はぁ?と間抜けな顔を狩屋くんがする。まぁそりゃそうですよね。原因を忘れるなんてね。「どうせ小さいことだったんだろ」ほらきた。反発しようと思ったけどまだ堪えることが出来たからしなかった。お願いだからそれ以上はもう何も言わないで…。




「家族と喧嘩したくらいで今日一日暗くなるとか子供だろ」
「……!」




プツンと頭で何かが切れるような音がした。むすっとした顔で狩屋くんを見ると、一瞬ちょっとびっくりした表情をして「何だよ」と一言。




「…分からないんだよ。」
「は?」
「狩屋くんは家族がいないから分からないんだよ!」




一瞬にして空気が凍りついた。けっこう大声で言っていたのか、離れていた天馬くん達もみんなこっちを見ている。しまった、と私は口を押さえた。バカだ、ほんとバカだ。言っていいことと悪いことくらい区別しなくちゃいけないのに。狩屋くんを直視出来ない私の目は、ただただ下に目線をさげた。




「…あぁ、そうだよ分かんねぇよ」
「…、あの…っ」
「悪かったな。口出しして」
「ち、違うの…!」
「何が違うんだよ。俺に家族がいないのは本当のことだろ?」
「狩屋、くん…」




座っていた狩屋くんは立ち上がって、天馬くん達に先にグランドに行ってると伝えた。動かしていた足を扉の前で止め狩屋くんが停止する。




「…神崎、」
「……」
「お前は俺のこと、分かってくれてると思ってた」
「…っ!」




扉の閉まる音が部室に響いた。葵ちゃんが心配して声をかけてくれたけれど、ごちゃごちゃになっている私は大丈夫。気にしないで。としか言えなかった。どうしてあんなことを言ってしまったんだろうと深く後悔しても過去はやり直せない。いくら心の中でごめんと謝っても、その声は狩屋くんには届かなかった。




シリウスの消えた夜







20120303